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育児とキャリアの両立は、どうしたら実現できますか?

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    昔ながらの母親像と、現代的な”働く母親像”の間で揺れ動く女性は少なくありません。母親と仕事の両立は可能なのか。自身も働きながら育児をした経験を持ち、家族関係・親子関係の発達心理学を専門とする恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんに、母親の育児に関するイメージをどう受け止め、どう解決すれば良いのかお話を聞きました。

    恵泉女学園大学 学長 大日向雅美 さんの考え方

    大日向雅美

    「3歳児神話」のウソ・ホント

    育児ではよく「3歳までは母親が家庭で子育てをした方がよい」との「3歳児神話」という話を耳にしますが、本当ですか?

    3歳児神話とは、①幼少期の大切さ、②幼少期には、母親の愛情が不可欠、③母親が育てないと将来の発達がゆがむと言われていますが、1998年の厚生白書で合理的根拠はないと明記されています。

    ただし、全てを根拠が無いと片付けられない側面もあります。

    私は発達心理学を専門としていますが、幼少期の重要性は事実で、この時期に人から愛される経験が大事で人を信頼する心を育みます。

    しかし、幼少期に受ける愛情の大切さは母親だけではありません。父親、祖父母など、こどもを責任感をもって見守る方々が関わることが大事なのです。

    ―3歳までの母親の接し方が重要と聞きました。

    母親だけが育児に専念することは、結果としてワンオペ育児とそれに伴う育児ストレスを生み出すだけで、良い結果を生みません。

    アメリカの研究で、母親の育児への関わり方(「専業主婦」か「働いているか」という2つの要因)だけでは、こどもの発達に影響は認められないという報告があります。

    母親の子に対する心がまえも大切ですが、同時に子育てへの周囲のサポート、保育の質、働き方も大切なのです。3歳児神話を問い直すことは、今、大切だと考えられ始めている子育て支援のあり方に結びつくものなのです。

    また現在は、片方の収入のみで家計を維持できる経済状況でもなくなっていますし、学んだことを社会に活かしたいと願う女性も増えています。

    3歳児神話を正確に問い直し、社会全体で子育て支援を行う時期が到来していると思います。

    見方を変えよう 家庭と仕事の「両立」

    大日向雅美

    ―家庭と仕事の両立に悩む女性は少なくありません。解決策はありますか?

    両立というと、仕事、家事、育児の全てをパーフェクトにこなさなければならないと捉えられがちですが、それはしょせん無理です。

    私は3つのバランスシートが常に必要だと訴えています。

    1つ目は母親である女性の人生のバランスシートです。

    仕事より家事・育児に注力する時期、こどもの成長後は仕事に重点を置く時期というように、自身の人生の中にメリハリをつけるという意味です。

    2つ目は夫である男性のバランスシートです。

    女性だけが常に、仕事、家事、育児のバランスに苦労するというのは既に時代遅れです。父親である男性も女性と同様に自身の人生内で仕事、家事、育児のバランスシートを構築すること、つまり夫婦の間でバランスをとりあうことが大事です。

    3つ目は社会・職場内のバランスシートです。

    育児や介護等で多忙な人に対しては、転勤・残業を免除し、代われる人が状況に応じて職場内で分担し合う体制づくりです。育児や介護等もいずれ終わったり軽減するときがきます。その時に代わっていただいた分、今度は他の人のために仕事を担うというバランスも大切でしょう。

    男女を問わず、仕事をしながら家庭生活を望むという夢を捨てずにすむ生き方を保障するために3つのバランスシートの構築が必要です。

    現在、現役労働世代の減少と社会保障費の増加という難しい問題を抱えています。

    この状況で育児中の働く女性が苦労する状況が続くと社会的損失が大きいことを、深刻に考えるべきだと思うのです。

    ―仕事が忙しいと、家事が疎かになります。

    まずは家事観を変えることが先決です。

    家事全般は女性の仕事だから男性が担うべきではないという考え方の中には、仕事と比べて価値が低いかのような感覚もあるのかもしれません。

    でも、家事は生活の根幹となる大切な仕事ですし、こどもでも担えるものもあります。こどもも含め家族全員で家事を分担する方が理にかなっています。

    また、外部リソースの上手な活用も選択肢の一つでしょう。

    手作り信仰や母性愛信仰は女性を窮屈にするだけです。

    暮らしを大切にする機運が高まっている今をチャンスと捉え、男性はもちろん、女性自身もこうした古い家事観から解放されることが必要です。

    夫の育児協力を得るちょっとしたコツ

    大日向雅美

    ―こどもの発熱時に母親が仕事の調整を強いられます。

    何かをお願いする際は「You(あなた)ではなく、I(わたし)からメッセージを始める」を基本にしてはいかがでしょうか。

    例えば夫婦間の話し合いで「あなた」を主語とすると、「あなたはなぜやってくれないの?」と、相手を批判するトーンになりがちです。

    この時の主語を「私」にすれば、「私は〇〇してもらえると嬉しい」となり、受け止める側の印象もかなり変わります。

    また、急に仕事を休めない夫であっても、例えば、実家に頼る際、一緒にお願いに行く、夫側の実家にも頼んでみるなど、できることを手伝ってもらってはどうでしょうか。それだけでも、夫の意識が変わるきっかけになるかもしれません。

    ―積極的に育児をしたくても、定時で帰れないと悩む男性もいます。

    企業のスタンスも次第に変わりつつあるとはいえ、現実にはそのように悩む人もいるでしょう。

    私が提案したいのは、職場の昼食や休憩などの際に差し支えない範囲で、上司や同僚などと「暮らしの状況を共有をする」ことです。

    暮らしの状況とは「最近、こどもが生まれたばかりだが、実家が遠くて」とか、「両親の介護が必要で…」といった自分の日常生活です。プライバシーはもちろん大切ですが、可能な範囲でこうした情報を互いに共有できる輪が広がれば、誰かが早退や定時退社、突然の休暇取得などが必要な際にも互いに気持ちよくサポートしやすくなるのではないでしょうか。

    「育業に取り組み出した今、みんなの意識を変えるチャンスだにゃ〜」

    ブランキャット
    大日向雅美

    答えてくれた人

    恵泉女学園大学 学長
    大日向雅美さん

    女子大の学長の傍ら、子育て家族支援のNPO活動にも携わるなど、現代の育児を積極的にサポート。育児書や子育て番組を通して、優しい語り口調で母親に寄り添う姿勢が人気を集める。

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