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東京都

  • 子供を大切にする気運醸成
  • 誰一人取り残されないようサポート

掲載日:2022年3月1日

国立大学法人東京医科歯科大学

現場の声を吸い上げて、子供にスポットライトが当たる病院を目指す

国立大学法人東京医科歯科大学(以下、医科歯科大学)では、小児科にかかる子供や親、妊娠中の母親やその家族に向けて、プロジェクションマッピングや子育て環境診断・スキル向上ウェブサイトの開発などの取組をしています。その取組について主旨や内容について伺いました。

親子だけでなく社会全体で子供の育ちを考えることが重要

医科歯科大学として、どんな思いを持ちながら子供を笑顔にするための取組をしているのか、発生発達病態学分野(小児科)教授である森尾友宏副学長をはじめ、各科で取組を実践している医師・歯科医師からお話を聞きました。

―医科歯科大学での子供・親世代への取組について包括的なお考えをお聞かせください。

森尾友宏副学長(以下、森尾):我々の病院には、小児科や小児歯科など、小児に関係する領域の診療科があることもあり、子供の発達や親子関係に関しては、非常に重要な領域だと考えています。来年度から指定国立大学法人に指定されることが決まっているのですが、『人類のトータルヘルスを実現する』ということをモットーにしております。
もちろんそれは、一つの大学病院で成し遂げられることではなく、地域とも連携して行っていきたいことであります。子供への支援が話題にのぼることはありますが、まだ現状は手厚くないと感じていますので、未来を担う子供をどう育てていけるのか、この問題を家族だけではなく、社会全体、我々大学病院として考えていくことに重要性を感じています。

子供たちに笑顔を!小児科病棟で行ったプロジェクションマッピング

お話を伺ったプロジェクションマッピングの製作段階から立ち会った発生発達病態学分野の谷田けい特別研究員(画面中央上部)をはじめとした小児科のみなさん

―医科歯科大学では、具体的にどのような取組をされていますか。

谷田けい 特別研究員(以下、谷田):昨年のクリスマスシーズンに、小児科病棟にてプロジェクションマッピングのイベントを行いました。実施にあたり、横浜市立大学のコミュニケーションデザインセンターと東京芸術大学映像研究科の先生方とコラボレーションをさせていただきました。
資金に関してはクラウドファンディングで、200万円を目標金額として挑戦したのですが、開始24時間で達成しました。最終的には1カ月半の間で、405名の方々にご賛同いただき、計529万7千円というご支援をいただいたのです。

―たくさんの方が協力され実施できたイベントだったのですね。

谷田:はい。コロナ禍ということもあり、面会や外出の規制もある中、病院内で子供たちに向けて何かできないか、というところから発展していったイベントです。院内に常駐しているチャイルドライフスペシャリストや看護師、我々小児科医から、どんな映像を投影するのが良いか意見を募りました。
その結果、幼い子供でも楽しめるように、明るく楽しい内容が良い、子供にも馴染みやすい動物が出てくるといった意見を加味した上で、東京芸術大学映像研究科の先生方が具現化してくださいました。

イベント当日の様子。クリスマス時期のため、ツリーやサンタクロースが登場

―イベント当日の様子をお聞かせください。

谷田:小児科病棟は院内の吹き抜けに面しているので、その吹き抜けを使って、映像を投影する形のプロジェクションマッピングでした。具体的には、壁を動物がよじ登ったり窓に入っていく様子、また大きなクリスマスツリーがその場にあるような風景など、まるで本当に実在しているかのようなものを作り上げました。

―実際にプロジェクションマッピングを見られた方の様子や感想をお聞かせください。

谷田:参加くださった方のご感想を一部ご紹介します。

「長期間の入院で気が滅入ることもありましたが、プロジェクションマッピングを見られて明るくなれた。子供も病室に飽きてしまっていたので、素敵なものを見せてくれてよかったです。ありがとうございました」(入院に付き添われている親御様より)

「次は僕の好きなキャラクターも見たい!」(入院しているお子様より)

「4歳男児、初めての手術&入院で、不安と緊張でずっとぐずっていましたが、プロジェクションマッピングを見てすごく喜んでいました。クマさんが寝ていたり、目を覚ましたり、サンタさんがロープを上っていたり…
今回の入院は足の手術だったので、車いすだったのですが、車いすの高さからも見ることができ、子供の心も落ち着き、母としても大変ありがたかったです。本当にありがとうございました!」(入院に付き添われている親御様より)

「入院中、中庭を見ることが唯一の楽しみでした。今回のプロジェクションマッピングで親子共々癒されました」(入院に付き添われている親御様より)

―イベントに参加された皆さんが楽しまれたことが伝わってきますね。

谷田:そうなんです。今後は、このようなホスピタルアートを常設したいと考えています。例えば、カメラの前に立った人が手を振ると、壁に映ったネズミさんが同じく手を振ってくれるなど、子供にもわかりやすく、誰でも楽しめるようなものにできればと思います。

―ホスピタルアートの常設は子供たちが喜ぶ取組になりそうですね。

あなたに合った子育てを見つけましょう「子育て環境診断・スキル向上ウェブサイト【もしプリ】」

誰でもお試しできる「もしプリ」https://moshipri.jp/

次は「子育て環境診断スキル向上ウェブサイト」について、妊婦や子供に向けた研究や自治体との連携にも参加している国際健康推進医学分野 藤原武男教授にお話を伺います。

―「子育て環境診断スキル向上ウェブサイト」とはどのようなものでしょうか。

国際健康推進医学分野 藤原武男教授(以下、藤原):我々は東京都と医科歯科大学との連携研究事業である『けんこう子育て・とうきょう事業』の一環として、子育て環境診断・スキル向上ウェブサイト「もし、あなたが子育てに悩むおとぎ話のプリンセスだったら (以下、もしプリ) 」を1年半ほど前に開発しました。自治体に妊娠届を提出した妊婦、乳幼児健診を受けた母親、そしてそのパートナーを対象に、もしプリを見る人、見ない人に分け、見る人たちには、必要な子育てスキルを配信します。
それを受け、産後うつや乳幼児の虐待予防、妊産婦の子育てへの自信などに効果があるかを検証することを目的とし、東京都内2つの自治体(足立区、八丈町)で実施しているところです。

―もしプリとは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか。

藤原:まず10問の質問に回答してもらいます。回答傾向より7人のプリンセスのなかからユーザーのタイプを提示します。それぞれのタイプに沿ってわかりやすく「子育ての心構え」「うまく人に頼る方法」「泣き止まない時の対処法」など、子育てに必要なスキルを全部で24個用意し、情報をお届けしています。

―7人のプリンセスはどのように設定されたのでしょうか。

診断を進めていくと執事が必要なスキルを指導

藤原:もしプリは、社会的課題をデザインで解決することを目的とするissue+design(特定非営利活動法人イシュープラスデザイン)と共同で作り上げたサイトです。研究者が考えるとつい文字が多くなってしまい、とっつきにくい印象になるので、ゲーム感覚で楽しめるよう診断という形にしました。物語の背景を汲んだ上で“シンデレラ、オデット姫、かぐや姫、シンデレラ、シェヘラザード、白雪姫、人魚姫”の7人を選びました。
7人の姫の設定やデザインも面白いですし、設問が簡単な10問ということで、気軽に使っていただけているようです。

―開始後1年半ほど経過している取組ですが、課題や今後の取組について教えてください。

藤原:今後もたくさんの方に利用していただくために、今は正確なエビデンスを作ることが課題です。例えば、足立区の調査では、育児が楽しいと感じる方の増加、重症な産後うつの半減、八丈町では、子供に怒鳴る回数が減ったなど、このアプリが役立っているご意見を多くいただきました。このような有効な結果をこの先もっと集めていきたいと思っています。充分な効果検証した後、男性に向けた展開なども視野に入れていこうと考えております。

妊婦や親子に向けて「お口のこと」を発信する小児歯科

小児歯科学・障害者歯科学分野の内藤悠医員(左)と和田奏絵助教(右)

―もしプリの今後の展開にも期待が持てますね。他の取組も教えて下さい。

小児歯科学・障害者歯科学分野 和田奏絵 助教(以下、和田):私たち小児歯科では、マタニティクラスとして、医科歯科大学で出産される7~8カ月の妊婦さんを対象に「お口のこと」に関したクラスを定期的に開催しています。妊娠中はホルモンの関係で歯周病の発生率が高くなるのです。今ではその認知も進み、各自治体でも歯科健診の無料チケットなどが配られるようになったのですが、医科歯科大学では15年ほど前から続けている取組です。

―出産をする病院で歯科健診もしていただけるのですね。

小児歯科学・障害者歯科学分野 内藤悠 医員:はい。このマタニティクラスをきっかけに、自分のお口の中に興味を持ってもらえることも多いです。また、妊婦さんたちからの質問では、「子供にいつから歯磨きをすればいい?」など、子供の歯についての質問も多いので、子供のお口のケアについてもお話しています。
さらにマタニティクラスを受講した方からは、「実際に出産してみて、より赤ちゃんの口腔環境や乳歯のケアについて知りたくなった」といった声を多数いただきました。そこから親子の歯科教室という取組が始まったのですが、今はコロナ禍ということもあり、イベントは中止されている状況です。

―コロナ収束後、やってみたい取組などはありますか。

和田:今まで実施してきた歯科教室では、親子で来ていたとしても、大人の方の声を聞き、質問にお答えするということがほとんどでした。今後は、もっと子供目線になって「歯医者の〇〇がこわい」など、具体的な子供の声を吸い上げていき、我々の治療の取組も変えていければと思っています。

子供とは未来そのもの。子供の声が届く取組を!

―最後に森尾副学長、今後の展開をお聞かせください。

森尾:病院にいる子供たちと長く接していると、決してポジティブなものではない意見もあったりして、痛いところを突かれるんですよね。でも、そういった意見こそが吸い上げていかなくてはならない声だと感じています。
そんな子供の声を含め、現場の声を重要視しながら、今後も子供のための取組を行っていきたいと思っています。

医科歯科大学の取組は、医学と歯学の相乗効果を発揮したもの、また大学・医療機関だけで完結するのではなく自治体やその他大学、機関との連携で実現されたものばかりです。『人類のトータルヘルスを実現する』という根底にあるモットーが行きわたっているからこそ、病気やケガの治療だけではない、今回取材させていただいたような取組が実現されたのではないでしょうか。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

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