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東京都

  • 誰一人取り残されないようサポート

掲載日:2022年3月1日

特定非営利活動法人ホームスタート・ジャパン

家庭訪問型の“届ける支援”を!子育て経験者が傾聴し協働するボランティア

地域に設けられた子育て支援センターでは、保健師に育児の相談をする人、親同士意気投合し、情報交換をする人の姿などが見られます。しかし、交通の便の悪さや体調不良など、なんらかの理由でそこに行くことのできない人たちがいるのも現実です。ホームスタート・ジャパンは、そんな家庭に訪問し、1人1人のニーズに合った育児や家事を一緒に行う「届ける支援」をモットーにしています。実際にどのような活動をしているのか、話を伺いました。

※イベントの写真は全てコロナ禍以前に撮影されたものです

多様な家庭のニーズを聞き、目の前の困りごとを一緒に解決する

ホームスタート10周年記念フォーラムの実行委員会を務めた山田さん(左)と荒砥さん(右)

お話を聞かせていただいたのは、NPO法人ホームスタート・ジャパン(以下、ホームスタート)で理事・事務局長を務める山田幸恵さん、東京ホームスタート推進協議会の会長で豊島区ホームスタート・わくわくでオーガナイザーを務める荒砥悦子さんのお二方です。

―ホームスタートが行っている活動の内容をお聞かせください。

山田幸恵さん(以下、山田):ホームスタートは「住民ボランティアにしかできない訪問型子育て支援」として1973年にイギリスで発祥し、現在は22カ国に広がっています。
子育て支援の拠点が家から遠い、多子で外出が難しい、子供や親が病弱、外国人で日本語が話せない。他にも様々な理由で、自ら支援を受けに行くことができない人たちがいます。そこで、私たちは「待つ支援」ではなく、「届ける支援」で多様化している家庭のニーズに応えるためのボランティア活動をしています。

―どのような方がボランティアをされているのですか。

山田:ホームスタートは現在、国内113地域で活動しており、各地にボランティアの「ホームビジター」と調整役の「オーガナイザー」がいます。オーガナイザーは訪問を希望する家庭のニーズを聞き取り、ビジターをマッチングします。そして、ビジターは実際に各家庭を訪問し、一緒に育児や家事をしたり、親と話したり、子供と遊んだりしながら時間を過ごします。未就学児のいる家庭(一部地域では初産婦も含む)に週1回、2時間程度訪問し、それをおよそ4回繰り返します。

―どのような方が利用されるのでしょうか。

荒砥悦子さん(以下、荒砥):利用される方は双子や多子の方、実家が遠くにあり、親からの手助けが受けられない方、ひとり親家庭の方、外国人の方など、本当に様々な方がいらっしゃいますが、ほとんどの方が女性です。利用を希望される方には、まず、利用申込書の記入をお願いしています。その後、私たちオーガナイザーは、シートを使って細かくお話を伺います。お子様の年齢は0~2歳が多いです。

一人一人の困りごとに寄り添い

―訪問時にはどのようなことに留意し、どんな時間を過ごしているのでしょうか。

荒砥:「現在妊娠中で、上の子となかなか遊んであげられないから手を貸してほしい」「赤ちゃんのもく浴の時間に一人だと不安なので一緒にいてほしい」「日本語がわからないので、小児科について来てほしい」など、当たり前ですが、家庭ごとにニーズは違います。
それに合わせて、一緒に家事や育児を進めていくのですが、時には愚痴をこぼされたり、悩み事を話されたりする方もいます。子供と一対一で家にいると、大人とたわいのない会話をする機会が激減するんですよね。コロナ禍ということもあり、人に会う機会が減る中、「これでいいかな?」「いいんじゃない」なんていう日常会話こそ、求めているものだったりします。利用者さんに寄り添いながら、各家庭の困りごとを解決できるよう意識しています。

2019年に行われた10周年記念フォーラムには、ボランティア、利用者ともに数多くの方が参加

―利用者のみなさんは、ホームスタートをどこで知り、利用しているのですか。

山田:より多くの方々に知っていただくため、地域連携をとにかく大切にしています。乳幼児健診や新生児訪問などで親御さんや妊産婦さんに会う機会の多い保健師さんをはじめ、子育て広場や保育園、小児科や産婦人科、地域によっては不動産屋さんなどに私たちの活動を知ってもらい、親御さんに紹介してもらったり、ホームスタートの冊子を置かせてもらったりしています。そして、各拠点のオーガナイザーは、地域での横のつながりを意識しながら、顔の見える関係を作っています。

荒砥:私たち豊島区では、親御さんたちがお子さんを遊ばせている区民ひろばに週一回、顔を出し、そこで開催されているイベントで、活動をお手伝いしながら、活動を紹介したりもしています。「こんな人が来るんだ」と、実際に顔を見てもらうことで、かなりハードルも下がるようで、お会いした方からはたくさんのお申し込みをいただきます。

―利用者のみなさんが利用しようと思ったきっかけはどんなことがあるのでしょうか。

山田:関わりのある保健師さんや育児関連に関わる方からの勧めが多いようですね。なかには、元々知ってはいましたが何をお願いすればいいのか、どこまで頼ってよいのかわからなくて躊躇していた、などのお話も聞きます。それでも利用した後は「不安が解消された。頼ってよかった」というお声を頂きます。

相手に共感する「傾聴」を大切に、一緒に家事育児をする「協働」を目指す

ビジターとともに子供とお散歩する利用者

―ホームスタートでボランティアをしているみなさんは養成講座を受けているそうですね。

山田:ビジターとして活動するためには、ホームビジター養成講座の修了が必須です。「子育てが落ち着いたので、誰かの役に立ちたい」「昔からお世話になっている地域に貢献したい」「自分もホームスタートを利用していたので、今度は自分がビジターになりたい」など、さまざまな動機から参加されています。講座は計37時間あるので、受講前は「こんなにできるかしら?」と、不安を口にされることもありますが、演習やグループワークが中心で、話を聞くだけの授業形式ではないので、楽しみながら受けておられます。

―講座で学ぶのはどのようなことですか。

山田:私たちは相手に共感し、耳を傾ける「傾聴」を大切にしているので、聞く側と話す側に分かれて傾聴の実践演習をしています。そして、利用者の中には深刻な悩みを抱えている方もいらっしゃるので、困難な状況にある家庭について学ぶコマもあります。参加者同士が互いの考えをグループで話し合う演習も多く、自分の視野も広がり、今まで意識しなかったことに関心を持つきっかけにもなるのです。

―荒砥さんは現場でどのように傾聴をされているのでしょうか。

荒砥:中にはパートナーの愚痴をおっしゃったり、子育ての不安を打ち明けてくださったりする方もいます。そういう場面でも、自分の意見を押し付けるのではなく、あくまでも耳を傾け寄り添う姿勢を大切にしています。時には意見を求められることもありますが、その時は「あくまでも私の場合は」と前置きし、お話させてもらっていますね。もちろん、ネガティブな話だけでなく、「実はゲームが好きで」なんて、楽しいお話をしてくれて、ビジターと意気投合することもあります。家事サポートではないので、あくまで“一緒に”というスタンスです。フレンドリーな態度で利用者さんを受容し、共感しながら伴走する「協働」を目指しています。

親自身が本来持っている力を取り戻すことが子供のためになる

※出典:「ホームスタートの効果 利用者の評価 2019/4~2020/3」

―ホームスタートの利用後には、利用した方はどんな話をされていますか。

山田:「孤立感の解消」「家事の上達」「親自身の心の安定」など、最初になんとかしたいと話されていた点について、それぞれの項目について話を伺っています。充足度の平均値は92%で、多くの利用者の方に満足していただけています。利用してくださった方の声をいくつか紹介させてください。

「子育てひろばや図書館に一緒に行けたことで、一人でも利用できるようになり、行動範囲が広がりました」
「子育て以外にもいろんな話ができて、イライラが解消され、自分の気持ちも整理できた気がします」
「大変な時は人に頼っていいと思えて楽になれました」
「下の子も連れて上の子と外遊びができました。おかげで子供の態度も少し落ち着きました」

―利用者さんの声を見ていると、自分に自信をつけている方が多いですね。

山田:そうなんです。ホームスタートを利用することで、気持ちや時間に余裕を持つことができたり、自己肯定感がより高まったとおっしゃる方がたくさんいます。それにより「私がしたかったのは、これだったんだ」「子供と一緒にできることはもっとあるかもしれない」など、さまざまな気づきのきっかけにもなります。その親御さんの声を聴き、「じゃあ、一緒にこんなことやってみませんか?」と、提案することもあります。そうやって、親御さんが本来持っている力を発揮してもらうことが私たちの願いでもあります。

荒砥:私が初めて現場に行ったとき、そのご家庭は赤ちゃんが生まれたばかりで、お母さんは「上の子(双子)と遊んであげられない」と悩んでいました。そこで、お母さんに何をしたいか伺ったところ、「みんなで“はないちもんめ”をやりたい!」と。私が赤ちゃんを抱っこして、お母さんは双子ちゃんと手をつないで一緒に遊んだのが本当に楽しくて、今でもよく覚えています。終わったあと、お母さんに「ありがとうございました」と言っていただいたのですが、「私の方こそありがとうございました」と感謝をお伝えしたんです。ボランティアをしている私たちにとっても、利用者の方との時間はとても有意義。助けて“あげる”という意識ではなく、支え合うような関係性で「お互いさま」の感覚を常に持って接するのが大事なんだな、と利用者の方から学ばせていただきました。

山田:昔のご近所付き合いのように、お互いを助け合う関係性が地域にあればいいのですが、昨今は、そのような関係性が身近でないのが現実ですよね。そのため、ホームスタートという道具を使って、地域の関係性という土壌を耕していくイメージで活動していきたいです。

学齢期の家庭に向けた拡張プロジェクトはまだ開発中で、研修内容は未定とのことですが、開発のきっかけとなったのは、「また利用したいけど子供が対象年齢ではない」という利用者からの声や、実際に話を傾聴する中での気づきからです。育児にはひとつの正解がないからこそ、悩みや不安が伴います。ホームスタートが大切にしている、傾聴をはじめとした「大人から大人への寄り添い」が、日々の育児に如何に大切であるかということを学べました。

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