本文へ移動

東京都

  • 育業促進

掲載日:2023年3月29日

東京メトロポリタンテレビジョン株式会社

職場の働きやすさに性別は関係ない 全ての社員に育業支援の意識を醸成できるよう、あらゆる方法でメッセージを発信し続ける

東京メトロポリタンテレビジョン株式会社(以下、TOKYO MX)は、都と連携し「育業応援プロジェクト企画」に取り組んでいます。また、社内でも育業を推進し、女性社員100%・男性社員50%という高い率(2022年度)を記録しています。多忙なテレビ業界において、社員の育業を促進するために必要なメッセージや取組、そこに至った背景について、代表取締役社長の伊達寛さんにお話を伺いました。実際に育業された社員の体験談を交えてご紹介します。

代表取締役社長 伊達 寛さん

就業規則を改正し、育業にまつわる新たな制度を創設

―一般的に多忙な業界イメージのあるテレビ局において、社員のライフワークバランスや育業推進の重要性をどう捉えていますか。

代表取締役社長 伊達 寛さん(以下、伊達):テレビ局として、ユニークなコンテンツを生み出し、新しい企画にチャレンジしていくためには、社員の心身の健康が必要不可欠です。そのためには、休むときは休んでライフワークバランスを整えてもらうこと。また、会社にばかり居ても発想が閉塞的になってしまいますから、プライベートを充実させ見聞を広げてもらうことで「視聴者は何を求めているのか」など、時流を捉えられるよう思考を活性化して、番組づくりに生かしてもらいたいと考えています。本年度の育業の取得率は女性社員が100%、男性社員は対象者が4人いるうちの2人が取得して50%でした。いずれも取得後は復職しています。

―育業の期間はどのくらいですか。

伊達:男性社員では、2〜3週間程度育業しています。部署や担当番組ごとに働き方が異なるので、まずは取得者本人と上長でタイミングや期間を相談し、総務部に報告をもらっています。会社としては、もっと長い期間育業してもらいたいところですが、男性社員が長期間育業するケースはまだ多くありません。だからこそ、全社的に育業を推奨しているというメッセージを出し続けることが重要であると考えています。

―一般的に従来の考え方では、育業制度は女性社員のものという意識が根強くあったと思いますが、そこを男性社員の育業を促進するに至ったのはどのような経緯でしたか。

伊達:子供は女性だけでなく社会全体で育てるものであると考えています。昨今では共働き世帯が増え、当社の男性社員の配偶者もどこかで働いていると考えると、自社の女性社員だけでなく男性社員の育業も促進することが、ひいては社会全体のサポートにつながると思っています。また、社内の男女比率の変化も育業を推進するきっかけの一つです。かつては男性社員の割合が多かったのですが、女性社員の比率が年々増えており、30歳未満では半数近い割合になっています。2023年入社予定の新卒採用者では、6人のうち5人が女性です。社内には管理職の女性社員も多く、今後さらに増えていくと予想されます。女性社員が増えてきたタイミングで働きやすい職場を改めて考えたときに、働きやすさに性別は関係なく、女性が働きやすい職場は当然男性や全ての人にとっても働きやすいはずだという結論に至りました。また、全社員の年齢分布では、30代以下が半数を占めており、これから出産や育児を経験するであろう彼らが安心して働き続けられるような環境づくりは必要不可欠でした。

―育業促進のための具体的な取組について教えてください。

伊達:取得しやすい雰囲気を常につくっておくことが大切だと考えています。そのため、管理職会議や社内のメールマガジンを通じて、日ごろから社内制度や法改正など育業に関する知識を伝達する機会を設けています。ほかにも、2022年4月には就業規則を大きく改正し、主に育児支援となる「ライフイベント休暇」や、主に出産にまつわる身体の負担をサポートする「ケア休暇」などを新設しました。 「ライフイベント休暇」には、配偶者の出産支援、育児、短期の家族看護、子供の学校行事への参加など、出産する本人だけでなく出産を控えた家族のいる社員も取得しやすいよう、子育てのための具体的な項目を設けています。「ケア休暇」では、母子検診受診やつわりのほか、不妊治療のための休暇も設定しています。

「企業や社会全体で育業を実践することは、日本にとって投資となる」という想いをフリップに書き込む伊達社長

育業した社員の実感「育児は仕事よりも大変で、役割を果たせるようになるまで時間がかかる」

―実際に育業をした男性社員・Aさん(制作局所属)と女性社員・Bさん(報道局所属)にも、体験談をお聞かせいただきました。

―まず、Aさんにお伺いします。男性社員の育業率はまだ低い現状がありますが、育業することに決めた理由をお聞かせください。

男性社員Aさん(以下、Aさん):これまで、私の所属する制作局内に育業を経験した方はいませんが、時事問題を扱う番組を制作していることもあり、育業への意識は以前からあったと感じています。私は男性だからといって育児を担わないのは無責任なことだと思い、育業を申請しました。また、制作局は社内で最も忙しい部署の一つですので、「制作局にいても育業できるんだぞ」ということを証明したいとも思っていました。

―育業に入る直前、上長や同僚などとどのようなやり取りがありましたか? また、後押しになったことなどがあれば教えてください。

Aさん:ありがたいことに、上長からは「育業は社員が行使できる権利なので、自分がしたいだけ育業をしなさい」と後押ししていただきました。また、同僚も育業に対して深く理解があったので、後ろめたい気持ちを持つことなく3週間の育業ができました。

女性社員Bさん(以下、Bさん):私は2016年と2019年にそれぞれ約1年育業しました。特に1回目は、同時期に3人が育業していたこともあり、妊娠を報告する際には少し不安がありましたが、上司も喜んでくださってホッとしました。私はつわりが辛かったので「業務面も配慮するので、なんでも言ってください」という上司の言葉に勇気づけられましたね。2回目の育業に入る際には、内勤を多めにさせてもらえたことで無理なく過ごすことができ、体調を崩すことなく育業することができました。私より先に育業した先輩がいたので、体調面の変化についても理解があり、柔軟に対応いただけて本当にありがたかったです。

―業務の引き継ぎはどのようにされましたか。

Aさん:制作局では代わりの人員確保が難しかったので、スタッフ全員に少しずつ私の担当業務を引き継いでもらいました。苦労もかけたと思いますが、毎日の担務表を作成して、全員で業務を分担することで、なんとか無事に3週間を乗り切っていただきました。

Bさん:報道局では、放送に向けて取材して原稿を書く記者としての仕事が1日の大半を占めます。それは他の社員も同じなので、特に1から引き継ぐ難しさというのはなかったですが、私が長期間に渡って取材していたトピックスを引き継ぐ際には、「こういった内容はあの人に取材すると良い」といったところまで詳細に伝えておくことで、属人的になりがちな部分も、引き継いでくれた社員がカバーできるようにしました。

―育業期間中は、パートナーとどのように育児を分担されていましたか?

Aさん:育業中は、主に妻が育児をメインに、その他の家事を私が行うように努めました。ただ、家事についても妻に手伝ってもらうことも多く、役に立たなかった点もあったと反省しています。私が普段からしっかりと家事を行っていれば、もっとスムーズに役割分担ができたのではないかと思います。そしてもう一つ、実際に育業をしてみて感じたことがあります。「育休」から「育業」に愛称変更されたとおり、育児は仕事よりも大変で、役割を果たせるようになるまでに時間がかかると実感しました。ですので、短期間ではなく、半年や1年など長期間でなければ、本当の意味での「育児」にはならないのではないでしょうか。

Bさん:私の場合は、パートナーの育業がタイミング的に難しかったので、産後1ヶ月は実家に里帰りしました。その後、戻ってきてからの産後2ヶ月目は、週1回ベビーシッターさんに食事の作り置きと、子供の沐浴のサポートをしていただきました。里帰りから戻ってからも体調はまだ本調子ではなく、食事を作るために立ち続けるのも辛かったので、ベビーシッターさんのサポートは頼んで良かったと思いました。 職場復帰後も、特に最初の3ヶ月は大変でした。時短勤務を希望したので、取材は日中を担当させてもらうなど配慮していただき、とてもありがたかったのですが、取材した記事を限られた時間でまとめるため業務中はすごく集中していますし、退社後は休む間もなく育児と家事に向き合う必要がありました。子供は待ってくれないので、復帰後はほぼ毎日、ぐずって泣きわめく子供をおんぶしながら夕食の料理をしていました。仕事と育児、・家事をしっかり両立したいという思いもありましたが、家事も仕事も自分が理想とする完璧を目指すと体力がついていかず、現実とのギャップを感じてしまってメンタル的に苦しんだ時期もありました。いろんな方の話を聞くと、パートナーの産後と、パートナーの職場復帰に合わせて育業をする男性が増えているそうですね。女性は出産後のリカバリーが必要ですし、職場復帰後に生活のリズムを作るのが大変なので、協力して育児をしていく上で男性が育業するタイミングや期間というのも非常に重要になると思います。

―貴社には育児をサポートする福利厚生が充実していますが、利用できて良かったと感じた制度は何ですか?

Bさん:助けられたのは、子の看護休暇です。子供一人につき、1年間で最大5日まで取得できるもので、私の家庭では幼い子供が2人いて、胃腸炎やインフルエンザに交互にかかってしまったときは本当に大変で、年次有給休暇だけではとてもまかなえない状態だったので、この制度があって良かったです。あとは、急な発熱の際などに派遣いただく病児保育のベビーシッターさんの利用額補助もありがたいです。子供の体調変化は予測できない突発的なことなので、どうしても外せない取材が入っているときは、病児保育のベビーシッターさんに来ていただいて、次の日に仕事を休めるように調整して看病したりと、さまざまな制度を組み合わせながらなんとか子育てしています。私は週に一度、キャスターとしてニュース番組に出演しているのですが、その予定と重なってしまったときは他の方に代わっていただくなど、社内外合わせ、いろんな人にサポートいただいています。

―育業を経験し、番組制作等、今後の仕事に活かせそうなことはありますか?

Aさん:私が時事問題を扱う番組を担当していることもあり、育業をした実体験が制作の参考になる場面が多くあります。自身が社会課題の当事者となれたことは、大変有意義だったと感じています。

Bさん:育業中、自分の時間はほとんどありませんでしたが、子育てにどっぷり浸かることができた貴重な時間でした。テレビ業界ではまだまだ男性の育業率が低いようですが、仕事の特性としても育業の経験がマイナスになることはないと思います。親の立場になってみて、個人的には仕事一筋だった20代の頃よりもより多角的に社会を捉えられるようになりました。職場復帰後、子育て関連の取材では、「ママ記者」として子育ての経験を生かせていますし、キャスターとしてさまざまなニュースを報じる中で、育業後はより実感をもって伝えられるようになった気がします。

―激務のイメージがあるテレビ業界で育業を促進するためには、何が必要だと思いますか?

Bさん:男性社員の育業を後押しする鍵を握っているのは、やはり雰囲気の醸成ではないかと思います。当社は、トップからのメッセージ発信もあり、取得のための制度も整っていますが、やはり変則的な働き方をせざるを得ない部署もありますので、現実的に難しいと諦めてしまう男性社員は少なくないかもしれません。しかし、当社で同じように働く女性社員の育業率は100%です。多忙な報道局にいながら取得される先輩の存在があったので、私も「子供が生まれたら育業するものだ」という意識がありましたが、「男性社員も育業して当然」という風潮にするためには、責任のあるポジションを担う社員がファーストペンギンになって前例をつくる動きがあると、一気に育業を取得しやすい雰囲気が醸成されてくると思います。 報道局に所属する男性社員で育業経験者はまだいませんが、都から「育業」への愛称変更の発表があったときには局内でもかなり話題になりました。一時的な話題に終わらず社会に浸透するかどうかが鍵であるという意見が多いですし、私もそのように思いますが、経験者としては純粋に嬉しく感じました。「育休」という言葉によって軽視されがちですが、実際に経験してみると「休暇」どころか育児は子供の命に関わる重大なミッションです。今はまだ取得することに後ろめたさを感じることもあるかも知れませんが、育業への愛称変更が社会に浸透して、あとは仕事をフォローしてくれる社員への還元もあれば、みんなで子育てするという意識にシフトしていけるのではないかと思います。

「堀潤モーニングFLAG」の育業企画の制作を通じて、子育て支援への意識が深まった

―11月から、東京都と連携し「育業応援プロジェクト企画」として朝の情報番組「堀潤モーニングFLAG」で育業に取り組む企業・団体を取材するシリーズ企画を始められました。東京都の「育業」に賛同し、取り組むことを決めた理由についてお聞かせください。

伊達:放送局として、番組を通して日々のあらゆる事象を伝え、問題提起する中で、都民の皆さんの声に耳を傾け、キャッチアップできているのかという課題意識は常に持っています。都民の皆さんのあらゆる想いをつないでいこうという共通意識から「つなげるテレビ。」という企業メッセージを2019年に発表して以来、TOKYO MXの番組づくりの核となっています。また、本年度から掲げる重点テーマ「子ども未来応援」と合致していたことも大きな理由の一つです。

社内エントランスに飾られた企業メッセージ

―東京都の「育業」応援企業への参画後、どのような変化や反応がありましたか。

伊達:「堀潤モーニングFLAG」内でコーナーを始めるにあたって、制作に携わる若手社員から子供がいる先輩社員に「何が大変だった?」「何が必要だと思う?」などヒアリングをしたことで、これまで以上に理解が深まったという声を聞いています。もちろん番組づくりにも生かされましたし、同時に部署を越えた交流が生まれ、社内で育業支援の雰囲気がより浸透した気がします。

―今後、「育業」を通じてどのような取組をしていく予定ですか。

伊達:性別を問わず、誰もが安心して育業するために、出産予定を知らされたらスムーズに育業の相談を始められるよう、予め社内周知を徹底しておくなど、育業しやすい雰囲気づくりに励んでいきたいと考えています。これまでの社内実績からも、「育業後は会社で居場所がなくなる」といった不安はないと思いますが、誰もが「育業したい!育業しよう!」と自然に思えるように、引き続き会社全体で育業推奨のメッセージを発信していきたいですね。

TOKYOMXでは、「つなげるテレビ。」という企業メッセージのもと、社員だけでなく社会全体の子育て支援のため、「育業」に取り組んでいます。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

紹介した企業・団体