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東京都

  • 子供を大切にする気運醸成
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掲載日:2023年3月9日

認定特定非営利活動法人キッズドア

ボランティアによる無料の学習支援で、教育格差の問題解決に挑む

認定特定非営利活動法人(以下、認定NPO法人)キッズドアでは、経済的な事情で学校以外の教育機会が失われている子供に対して、大学生や社会人のボランティアによる無料の学習会などの教育支援事業を展開しています。今回は理事長の渡辺由美子さんに、事業を始めたきっかけや、支援によって子供の進路が切り拓かれた事例、子供の教育支援にかける想いなどについてお話を伺いました。

理事長 渡辺由美子さん

すべての子供が夢や希望を持てる社会を目指し、教育格差の解決に取り組む

―現在実施している子供向けの取組はどのような内容ですか。

理事長 渡辺由美子さん(以下、渡辺):私たちはすべての子供たちが夢や希望を持てる社会の実現を目指して、「学習支援」「居場所支援」「キャリア/体験活動」を軸とした教育支援事業を行っています。
「学習支援」では、家庭の経済事情で塾などに通えず勉強に困っている子供に向けて、無料の学習会を開催しており、例えば今年度は中・高校生を中心とした約2,000人の子供を受け入れています。そのほか、進路相談や、季節行事・芸術鑑賞などの体験活動も実施しています。
「居場所支援」では、勉強や他者とコミュニケーションが取れる場や、食事の提供などを通じて、子供が安心して過ごせる居場所づくりを実施しています。
「キャリア/体験活動」では、子供が将来について真剣に考えられるよう企業の社員ボランティアと将来について話したり、企業のオフィスツアー、さらに自然に触れる機会やコンサート、美術館に行く文化的体験など様々な体験機会を提供しています。

―教育支援事業を始めた背景、理由、きっかけについてお伺いさせてください。

渡辺:主人の海外赴任に同行し、子供も含めた家族で1年間、イギリスで生活した時に体験した出来事がきっかけとなっています。
日本では学校に通うために、ランドセルや筆記用具、副教材など、様々な場面でお金がかかりますが、イギリスでは学校生活に係るお金はほとんどかかりません。学用品はバザーなどで集めた寄付金などをもとに学校が購入して校内に備え付け、子供たちはそれをみんなで使うというスタイルが基本です。
日本に帰国してからというもの、子育てにお金がかかる日本の現状に危機感を覚えました。これらの体験から、各家庭の経済事情が、子供時代の体験活動も含めた教育の格差を生む現状を打破するために、「何かできることはないのか?」と考えたことが、教育支援事業をスタートさせる最初の一歩になりました。

学習会で勉学に励む子供たちの様子
※写真はコロナ禍前(2019年)に撮影したもので、現在の学習会ではマスクを着用し、生徒とボランティアさんは適切な距離を保っています

子供の気持ちが最優先。一人ひとりと向き合う学習支援

―海外生活における体験が今の教育支援事業を生むきっかけになったのですね!事業の特徴やアピールポイントはどのような点にあるのでしょうか。

渡辺:一番の特徴は、大学生や社会人のボランティアが子供一人ひとりと向き合い、そばで寄り添いながら学習支援を行っている点にあると思います。学習支援の利用者には、家庭の経済事情などを背景に、親など身近な大人と触れ合う時間が少ない子も多いのです。そうした環境では、「宿題を見てもらう」「話を聞いてもらう」など、自分に向き合ってもらう機会になかなか恵まれず、勉強への意欲を失ってしまったり、人と話すことに苦手意識を持ってしまったりする子も少なくありません。学習会でボランティアとじっくりコミュニケーションを取ることで、子供たちは次第に心を開き、前向きに勉強に取り組めるようになり、悩みを気軽に相談できるようになります。支援が必要な子供と、子供の未来を応援したい大人。双方をつなげる場をつくり、子供たちの可能性を広げていくことが、私たちの仕事であると考えています。

―教育支援事業を行う中で、大切にしていることを教えてください。

渡辺:「子供の気持ち」を最優先にすることを大切にしています。自分の希望を表に出さないような子でも、実は心の中でやりたいことを思い描いていることが多いです。そのため、彼らの考えや想いを引き出すことで、それを応援してあげたいと常に思っています。
その象徴的な事例が、2021年6月からSBC メディカルグループの支援のもとに開始した「キッズドア学園SBCメディカルコース」です。これは医師や看護師、薬剤師など、医療従事者を目指す子供たちのための学習会で、オンラインも併用しながら全国の高校生に対して学習支援として実施しています。当コースには、「実は医師を目指していたけれど、家庭の事情もあって、勉強や進路選びに困っていた」といった子供たちが集まり、学習に励んでいます。初年度は千葉大学医学部などに延べ15名が合格することができました。このコースに通っていた子供の中には、それまで日頃の学習習慣がほとんどなく、中学レベルの勉強から始めたような子もいます。そうした背景を持つ子でも、学習支援を続けることで一生懸命勉強するようになり、夢への切符を掴み取っています。そんな姿を目にするたびに、子供の夢や希望を応援することの大切さを実感します。子供がやりたいことに突き進むパワーは本当にすごいものがあります。

学習会で勉学に励む子供たちの様子
※写真はコロナ禍前(2019年)に撮影したもので、現在の学習会ではマスクを着用し、生徒とボランティアさんは適切な距離を保っています

一人でも多くの困っている子供に支援を届け続けるという難しさ

―教育支援事業を行う中では、大変なことも多々あったのではないでしょうか。

渡辺:そうですね。特に「多くの子供に支援を続ける仕組みづくり」と「社会からの理解を得ること」については、困難も多くありました。
「勉強する場所がない」「居場所がない」と困っている子供は全国にいます。一人でも多くの子供に支援を届けるにはより多くの拠点をつくる必要がありますが、NPO法人として寄付や助成金、委託金をもとに事業を行う私たちの資金は限られています。また、事業の性質上、一度つくった拠点や取組は継続していく必要があるため、「いかに活動拠点を増やしながら、事業の継続性も担保するか」という点は、キッズドアを創設した2007年から現在まで考え続けているテーマです。
そんな中、近年では国全体で「子供の貧困」への関心が高まり、私たちも国や自治体の事業を受託することで、これまでよりも事業を継続・拡大しやすくなってきました。このような環境の変化を通して、社会がより良い方向に変化していると感じています。

―困難としてもう一つ挙げていただいた、「社会からの理解を得ること」という点についても詳しく聞かせていただけますか。

渡辺:以前は高校生への大学進学を見据えた学習支援に対して、「それは必要があるのか?」というご意見をよくいただいていました。私たちが大学進学も意識した高校生への学習支援をスタートさせたときは、現在ほど子供の貧困対策の重要性が世の中に浸透していない時期でした。そうした時世だったためか、「中学生に高校進学のための支援をするのはわかる。しかし、進学費用もなく、勉強もできないような子をさらに進学させ、大学にまで行かせる必要はあるのか」という声がよく届いていました。
しかし、現在の日本は約半数の高校生が大学に進学する社会です。大学で学びたいのに経済的な事情で諦めている子がいるのだとすれば、そこに対する支援は必要なはずです。また、そもそも日本では義務教育を受ける子供への支援は用意されていますが、高校生以降の支援は一気に手薄になってしまう状況もあり、子供たちのため、困難の中でも前進してまいりました。最近では子供の希望を応援しようとする機運の高まりを受け、私たちの活動も理解を得やすくなったと感じています。

キッズドアのスタッフが子供に勉強を教える様子
※写真はコロナ禍前(2019年)に撮影したもので、現在の学習会ではマスクを着用し、生徒とボランティアさんは適切な距離を保っています

「キッズドアがあって良かった」という感謝の声や、子供たちの成長がやりがいに

―学習支援を利用する子供からは、どのような感想が寄せられていますか。

渡辺:最も多いのは「キッズドアがあって良かった」という感想です。「キッズドアがあったから、希望の高校や大学に進学することができた」「キッズドアのスタッフが背中を押してくれたから、進学を選択できた」という声を聞くたびに、私たちの活動の意義を強く感じます。

―困難に立ち向かってきたからこそ、報われたときの喜びもひときわ大きいのではと想像します。

渡辺:そうですね。複雑な家庭環境で育ったキッズドアの利用者が、無事にそれぞれの進路を歩んでいる姿を見ると本当に嬉しくなります。キッズドアは設立から15年以上が経っていますから、最近では就職した子が勤め先でボーナスが出たタイミングで差し入れを持ってきてくれたり、進学した子がアルバイトとして学習支援をサポートしてくれたりすることも増えました。似たような境遇の子供たちが彼らをロールモデルとして捉え、将来を描くきっかけにもなっています。

―学習支援に取り組むボランティアからは、どのような感想が寄せられておりますか。

渡辺:ボランティアの方々からは、「自分が学習支援を通して子供たちに学びを提供するものだと思っていたけれど、逆に自分が学ばせてもらっている」という声をよく聞きます。みなさんボランティアを始める前は、「自分が子供たちに教えてあげるんだ」という気持ちを持って参加されるのですが、実際にボランティアを経験すると「自分たちの方が多くのものをもらっている」と話される方が多いです。教えている子が成績を上げたり、志望校に合格したりするのは嬉しいものですし、子供と関わる中で刺激を受け、活動にやりがいや生きがいを見出してくださる方もいます。

キッズドア主催の植樹の体験活動に参加する子供たち
※写真はコロナ禍前(2019年)に撮影したもので、現在の学習会ではマスクを着用し、生徒とボランティアさんは適切な距離を保っています

子供に関連する様々な社会課題の解決に向けて、活動を広げ、充実させていきたい

―現在実施されている取組をさらに改良、拡大していく等、今後の展望やビジョンをお伺いさせていただけますか。

渡辺:これからも子供を取り巻く課題の解決に向けて、できることを模索し、実行していきたいです。私たちは15年以上活動を続けていますが、コロナ禍や物価高騰の影響なども含め、社会には子供に関連する課題がまだ数多く残されています。子供たちのために私たちができることは、まだまだたくさんあるはずです。今後はそれらの課題と向き合いながら、活動をさらに広げていきたいと考えています。これからの社会に必要となる力を育むためにも、特に体験活動の充実に力を入れていきたいです。

幅広い活動が子供の将来につながる。子供の夢を応援し、未来をつくっていく

―最後に、子供たちや、ほかの企業・団体のみなさまへのメッセージをお願いいたします。

渡辺:子供たちには、「夢を諦めないで、困ったら大人を頼ってほしい」と伝えたいです。夢を持つことは、子供の仕事です。みなさんが思っている以上に多くの大人が「子供の未来を応援したい」と考えていますから、やりたいことがあるのなら、ぜひ周囲に話してみてほしいです。また、困ったことがあったときも、身近な大人に相談してください。きっとみなさんの力になってくれるはずです。私たちキッズドアにアクセスしていただいても構いません。子供の声に耳を傾けてくれる大人は必ずいますから、安心して周囲を頼ってみてくださいね。
企業・団体のみなさまには、「ぜひ、私たちと一緒に子供たちを応援しませんか?」とお伝えしたいです。キッズドアでは2022年10月、「子どもから、未来をひらこう。」というスローガンを発表しました。未来は子供たちがつくっていきます。未来を担う子供を応援したいと考えている企業様や団体様がいらっしゃれば、ぜひお気軽に声をかけていただけたら幸いです。
子供のための活動は、社員のボランティア活動だけでなく、どのような形でも行うことができます。例えば、職場体験を実施させていただければ、子供たちの視野を広げることにつながります。また、まだ使用できるのに廃棄処分になってしまう食品や衣料品などを提供いただければ、困っているご家庭に必要な物をお届けすることもできます。子供たちを応援し、彼らが喜んでいる姿を見るのは本当に楽しいものです。その楽しさをみなさまと一緒にぜひ味わうことができたら嬉しく思います。

―素敵なメッセージをいただき、ありがとうございました!

教育格差の解消に向けてボランティアによる無料の学習会などを実施する認定NPO法人キッズドアの取組は、子供たちが家庭環境に関わらず、自らの可能性を切り拓いていくことにつながる、意義のある活動です。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

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