掲載日:2023年3月9日
株式会社 東日本銀行
失敗は悪いことではない!子供たちの起業体験が、社会を生き抜く力につながる
株式会社 東日本銀行では、東京都の「小中学校向け起業家教育推進事業」に参画し、起業家教育プログラムを用いたアクティブラーニングの取組を支援しています。子供たちが起業と経営のプロセスを体験することで、これからの社会を生き抜く力を養うことを目的とする本取組について、株式会社 東日本銀行 営業戦略部 カスタマーサービス室 室長 竹内康浩さん、高井志野さん、経営企画部 企画グループ ビジネスリーダーの根本浩志さんにお話を伺いました。
小中学校を訪問し、金融教育を通じて実際の企業活動を疑似体験してもらう
―現在実施している子供向けの取組はどのような内容ですか。
株式会社 東日本銀行 竹内康浩さん(以下、竹内):当行では2020年度より、東京都の「小中学校向け起業家教育推進事業」に参画し、東京都が策定・実施する起業家教育プログラムをもとにしたアクティブラーニングの支援を行なっています。
本プログラムでは、子供たちが会社の設立から資金調達、原材料の仕入れ、商品開発、販売・決済までの一連の流れをグループで体験します。子供たち自らが考えた会社の事業活動を通じて、お金との付き合い方やモノの動きを知り、事業活動が自分たちの暮らしや社会にどのような影響を与えるのかを、身をもって体験できるプログラムになっています。
その中で私たちが主に携わるのは、事業計画や資金調達、決算や返済にまつわる部分です。営業店や本部の行員が小・中学校を訪問し、銀行員役として子供たちの立てた事業計画の達成状況の確認や今後のアドバイスを行うなど、子供たちに実際の経営者としての立場を疑似体験してもらえるような機会を提供しています。
2020年度より本プログラムを実施し、2022年度までに8つの小・中学校に赴き、累計1,000名前後の子供たちの学びをサポートさせていただいています。
―子供向けの取組を始めた背景、理由、きっかけについてお伺いさせてください。
竹内:まず初めに、東京都の「小中学校向け起業家教育推進事業」に参画した背景には、親会社である株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループが掲げるCSR・SDGsの取組が根底にあります。株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループでは、地域社会の一員として社会の持続的な発展に貢献することを目的に、グループサステナビリティ方針に基づく行動計画「サステナビリティ長期KPI」を策定しており、2030年度までに金融教育受講者数10万人を目指しています。
この方針のもと、当行においても、世界の共通課題であるSDGsの実現に積極的に取り組んでおり、地域とともに生きる金融機関として、金融教育に関する取組を重要な責務と捉え、現在のアクティブラーニングプログラムの実施に繋がりました。
これからの社会を生き抜くうえで必要不可欠な力を身につけてもらうための工夫
―貴行の目指す金融教育を体現した素晴らしいプログラムですね!取組としての特徴やアピールポイントはどのような点にありますか。
竹内:アクティブラーニングを通じて、将来の起業家を育てるお手伝いに加え、子供たちが高い志や意欲を持ち、これからの社会を生き抜くうえで、必要不可欠な力を育むことを大切にしています。
例えば、会社設立のフェーズでは、子供たちで話し合って、社長・会計マネージャー・宣伝マネージャー・仕入マネージャー・販売マネージャーなどの役割を決めます。自身の得意なことや仲間の良いところを探し、助け合いながら仮想事業を進めることで、「協働すれば、一人では達成できない大きな目標を達成できること」「他者を認め、信じて任せることの大切さ」などを学ぶことができます。
また、資金調達のフェーズでは、子供たちは作成した事業計画書を銀行員役である私たちに見せ、「こういう計画なので、これだけのお金を貸してほしい」とプレゼンテーションを行います。私たちの質問に論理的に答え、納得させなければならないことから、プレゼン力、話を理解する力、論理的思考力などを養える点も大きな特徴です。
―具体的に取組を実施、検討する中で、大切にしていたこと、重視したことは何かありますか。
竹内:子供たちが作成した事業計画書をもとに融資審査をするときは、子供たちにお金の大切さ、お金を借りることの大変さを知ってもらうため、あえて1回で承諾しないようにしています。子供たちの自由な発想を否定しないように配慮しながら、実際の銀行員としての対応と同様に、売上目標や商品単価設定、商品の強み、販売方法の工夫、1人当たりの利益などに対して課題点を見つけ、改善した事業計画について再度プレゼンしてもらうという流れを重視しています。
また、決算発表時の講評では、子供たちが「黒字=成功=良い」「赤字=失敗=悪い」と思わないような講評を心がけています。失敗は成功するために必要な過程であることを伝えるだけでなく、成功したとしても次につながる改善点があるという気づきを与えることを重視しています。
具体例を挙げますと、2022年度は5つの小・中学校でプログラムを実施しましたが、10社中2社が黒字で、残りは赤字という結果になりました。黒字の会社は、販売予定個数よりも売れすぎたため利益につながったことが要因ですが、一方で商品が不足し機会損失が生じていたと推察できます。そのため、事前の市場調査が十分にできていれば、もっと利益を生み出せたのではないか、といった形で次につながるような講評を心がけています。赤字になってしまった会社に対しては、商品のコンセプトは良かったため、単価設定を改善すれば黒字になったのではないかと、改善点だけでなく、良かったところも積極的に評価するような講評を心がけています。
子供たちの主体性を育む環境づくり
―取組を始めてから、どんなハードルや苦労がありましたか。それらにぶつかった際、どのようにして乗り越えましたか。
竹内:起業家教育プログラムの初期から中期にかけては学校の先生方が指導に当たるため、子供たちは本物の銀行員が来るとは思っておらず、教室に私たちが訪れると緊張し、なかなか話してくれないことがありました。そういう子供たちの心情を踏まえ、緊張がほぐれるまでは、子供たちが話しやすい内容(仮想起業する会社名や商品名の由来等など)を質問してから、本題(売上目標やコスト、利益など)の話をするシナリオに変更するなどの対策を実施しました。
また、子供たち全員が意見を発表できる環境づくりにも試行錯誤しました。本プログラムでは5~6人のグループで仮想会社を設立しますが、リーダーとなる子供がすべてのプレゼンを行なってしまうことが少なくありません。そのため、なるべく全員がプレゼンに参加できるように、各役割にあった質問を投げかけるとともに、再プレゼンへのモチベーションを維持できるよう、否定的な言葉は使わず前向きな表現を使うなど、子供たちへの接し方を工夫しました。
子供たちの成長が、行員のやりがいやモチベーションにつながる
―実際に取組に参加した子供や先生方から、どのような感想や意見が寄せられておりますか。
株式会社 東日本銀行 高井志野さん(以下、高井):子供たちからは、「本物の銀行員さんに対応してもらえるとは思っていなかった!」「銀行員さんのアドバイスから、こういう考えもあるんだ!という発見があった」という外部指導ならではの感想や、「優しく教えてもらえたのが嬉しかった」「お金の話は苦手だったけれど、とってもわかりやすかった」など、好意的な感想をいただいています。
また、「1回目のプレゼンで融資してもらえなくてがっかりしたけれど、確かに少し弱気な計画だと思い直した」「何回もやり直しになったため、合格したときはすごく達成感があった!」といった感想もあり、プログラムを通して現実の厳しさを疑似体験したことで、起業や経営の面白さを感じていただいたことは非常に良かったと思っています。
先生方からは、「普段はおとなしい生徒が積極的に意見を言ったり、昼休みも熱中して事業計画を立てたりしていた」などの声をいただき、この取組の手応えをひしひしと感じています。
―取組を実施する前と後で、本取組に対する社内の反応に変化はありましたか。
高井:行員は、普段の業務の中で子供たちと接することはほとんどありません。そのため、取組前は行員自身も不安に思う部分があったように感じています。
しかし、実際に取組を開始してからは、「難しい内容にも子供たちが熱心に耳を傾けてくれて、理解してもらえたときは非常に嬉しかった」「子供たちの頭は柔らかく吸収力があり、逆に勉強になる部分がたくさんあった」といった声が挙がっています。また、「子供たちから感謝の言葉をもらうことで、銀行員であることを客観視することができ、初心を思い出した」といった声も届いています。
子供たちの一生懸命な姿が行員のやりがいにつながったり、通常の業務から離れた取組を行うことで、気づきや感動を得たりと、行員自身のためにもなっている点が、この取組の優れたところだと感じています。
新しく制作したウェブコンテンツも活用しながら、自治体や地域と連携した取組を展開していきたい
―現在実施されている取組をさらに改良、拡大していく等、今後の展望やビジョンをお伺いさせていただけますか。
竹内:今後も起業家教育プログラムへの支援や、職場体験活動などを通じ、自治体や地域と連携した取組を積極的に行っていきたいと考えています。
また、「小中学校向け起業家教育推進事業」は東京都の取組ですが、自分の子供にも受けさせたいと思うほど素晴らしい取組ですので、他の道府県でも広がっていくことを期待しています。
―現在実施中の取組のほかに、新たに実施を企画している取組等があれば教えていただけますでしょうか。
株式会社 東日本銀行 根本浩志さん:2022年11月に、東日本銀行のホームページにて、「東日本銀行 おかねの教室」というウェブコンテンツを開設しました。具体的には、子供たちにわかりやすくお金の基本を伝えられるよう、「おかねって何なのだ?」「おかねをステキに使うのだ」「おかねをステキに稼ぐのだ」「はじめてのSDGs」という4本のアニメーション動画を制作し、ホームページ上に掲載しています。今後は当行のお客様や、近隣の学校とのコミュニケーションに活用していく予定です。
子供たちの未来を切り開くための伴走者となる
―最後に、子供たちへのメッセージをお願いいたします。
竹内:子供たちには、「失敗は悪いことではない。何回でもやり直すことができる」、「得意不得意をバランスよく活かすことで、チームワークが発揮される」ということを伝えたいです。様々な人と協力することで社会が成り立っていることを、体験を通じて感じていただきたいと思っています。東日本銀行は、これからも子供たちが高い志や意欲を持ち、厳しい挑戦の時代を乗り越えて、未来を切り開いていく力を育むためのお手伝いをしてまいります。
―素敵なメッセージをいただき、ありがとうございました!
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