掲載日:2023年2月2日
東京電機大学
理系大学が取り組む「理科好き」「ものづくり好き」を育てる本気の授業
東京電機大学では、「ものづくり」をキーワードに、「理科好き」「ものづくり好き」の子供たちを育む多様な取組を実施しています。子供たちに提供するのは知識だけでなく、実践的なスキルも伝授する本格的なものばかりです。理系離れが急速に進行する中で、子供たちと向き合う理系大学の熱意について、東京電機大学 研究推進社会連携センター(CRC) 地域連携担当課長の深澤武彦さんにお話を伺いました。
「子供に理科やものづくりを好きになってもらいたい」という想いから、子供たちが楽しめる学びの場を提供する
―現在実施している子供向けの取組はどのような内容でしょうか。
研究推進社会連携センター(CRC) 地域連携担当課長 深澤武彦さん(以下、深澤):主に三つの取組を行っております。一つ目は、「科学・ものづくり体験教室」(足立区教育委員会との共催)です。東京千住キャンパスにおいて、足立区内の小学5年生を対象として毎年開催しています。コロナ禍の影響でここ数年はオンデマンド形式で開講しています。夏休み期間中、自宅等で動画(本学教員作成のオリジナルコンテンツ)を見ながら、自分のペースで工作や実験ができます。毎年300人近くの子供たちが受講する人気のコンテンツになっています。
二つ目は、上記体験教室に参加された方のアンケートを通して把握したニーズに応える形で開催した、大学キャンパス内での本学独自の取組です。今年度は感染対策を行った上で、「ブレッドボード(電子回路の実験や試作をするための基板のこと)を使った電子工作教室」(小学5・6年生対象)、「D-girls(東京電機大学の女子学生活動団体)による理科実験教室」(小学3・4年生対象)、「電磁力を学ぶための電子工作教室」(中学生対象)、「親子で一緒に電気について考える」(小学4年生以上対象)等の講座を対面形式で開講しました。「ブレッドボードを使った電子工作教室」は、子供たちに一日大学生になったつもりで電気の基礎知識を学んでもらった上で、実践編としてブレッドボードを用いた回路製作を行うプログラムです。来年度以降も、感染状況を踏まえつつ、本学のキャンパスを活用した取組を継続したいと考えています。
三つ目は、「子ども大学はとやま」です。子ども大学はドイツのチュービンゲン大学で始まった取組で、日本では2009年から始まり、大学のキャンパス等で大学教授などが講師となり、子供の知的好奇心を刺激する講義や体験活動を行う取組です。本学も埼玉県から依頼を受けて、埼玉県教育委員会や鳩山町教育委員会が中心となり、山村学園短期大学様、日本医療科学大学様と連携しながら実施しました。コロナ禍の影響で3年ぶりの開催となった令和4年度は、大学近隣在住の小学4年生~6年生に対し、本学教員や大学生が講師となり、「スノードーム」作成に挑戦し、使われる材料等の特性や性質等について体験的に学ぶ講義を行いました。
このように本学の強みを活かし、例えば樹脂(ポリビニルアルコールやグリセリン等々)の特性や性質を学ぶ、また、電圧・電流やいろいろな法則を学ぶ等々、作るだけでなく物事の仕組みに関する授業等を行っています。同様の取組は、草加市や狭山市といった埼玉県の市区町村においても実施しています。
※(本記事に書き切れませんでしたが、この他にも従前から実施している各種講座・教室を企画・実施されていることをお伺いさせていただきました!)
―子供向けの取組を始めた背景、理由、きっかけについてお伺いさせてください。
深澤:東京電機大学は、建学の精神「実学尊重」と教育・研究理念「技術は人なり」を掲げ、「教育」と「研究」、「社会貢献」の大きな3つを柱とし、社会に貢献する人材育成に取り組んでいます。日々の教育・研究活動で得られた成果や知的資源を、公開講座、公開科目、産学連携、地域社会との交流や連携という様々な形で、それぞれのキャンパスにおいて展開しています。
本学の子供向けの取組は、「理科やものづくりを好きになってもらうきっかけを提供したい」との想いから始まりました。小さなきっかけかもしれませんが、これらの取組を通して、子供たちが「将来エンジニアになりたい」、「エンジニアとして活躍したい」等、夢を持ってもらえるように、日々思考錯誤しながら企画・実施しています。またその夢をかなえるために学ぶ場所が本学であれば嬉しい限りです。「電大に入りたい!」と言ってもらえように、今後も魅力的なものを提供していこうと考えています。
地域の人々との交流から、取組のアイデア・ヒントが生まれる
―どのような経緯で、また何から着想を得て実施することになったのでしょうか。
深澤:自治体や近隣小中学校や地域の方々との交流を通して、本取組の着想を得ることができました。本学が神田錦町にキャンパスを構えていた時から、本学教員や学生が地域の方々と個別に交流する中で、「実験教室や体験教室、出張講義などを開いていくれないか」といった要望を多数いただいておりました。北千住に移転した後、2017年に、地域と本学の更なる連携を目的として、地域連携推進センターを新設(現:地域連携担当)したことで、自治体や近隣の小中学校、また地域の方々からの様々なご要望等を伺う窓口を一本化する体制ができました。これにより、各種の取組の検討促進に留まらず、体験講座等に参加する子供や学生等の安全性や取組そのものの質の向上の実現につながっています。
子供が実際に手を動かす実践的な「体験」機会を数多く提供する
―地域の方々の声が取組につながっていったのですね!取組としての特徴やアピールポイントはどのような点でしょうか。
深澤:子供たちが実際に手を動かして「ものづくり」をしてもらうことが特徴だと考えています。それも、単に作るだけではなく、普段入ることのない大学の教室で、大学の先生の「講義」を聞いてから、ものづくりにチャレンジします。講座によっては大学生が講師やサポート役として参加するため、大学の教授だけでなく、大学生という普段接する機会がない人とコミュニケーションが取れます。早いうちから、様々なキャリアを歩む人と触れ合う機会を持つことは、子供たちにとって大変よい経験になると思います。 本学では学部1年次に電気や通信について学びながら実際にファクシミリを製作する科目(本学の初代学長 丹羽保次郎博士は日本初の写真電送装置(ファクシミリ)を発明した日本の10大発明家の1人)や、建築ワークショップ、プログラミング実習、機械設計製図や生命科学基礎実験等々、実際に手を動かして「自らが作る」ことを大切にしている科目が多くあります。これらの知見が子供向けの講座にも活かされていることもアピールポイントの一つです。
リモート下で学びを深めるための教員たちの工夫
―取組を始めるまで、もしくは始めてから、どんなハードルや苦労にぶつかりましたか。それらにぶつかった際、どのようにして乗り越えたのでしょうか。
深澤:新型コロナウイルス感染症の影響で、体験講座が対面形式で開催できない時期が生じたため、企画内容や実施方針を見直す必要がありました。そのような環境下で「科学・ものづくり体験教室」をオンデマンド形式で開催した際は、体験キット等を大学から各家庭にお送りして、自宅から参加してもらう形式に変更して対応しました。 中でも「紫キャベツを利用した試薬の作成に関する教室」では、本学教員からの熱い提案を受け、子供たちに実験レポートを作成してもらい、それに対しフィードバックを行い、「なぜ?」に対する興味や理解を深めてもらう形式としました。このように、社会情勢に合わせて柔軟に対応することで、子供たちに継続的な遊び・学びの場を提供してきました。
―実際に取組に参加した子供から、どのような感想や意見が寄せられておりますか。
深澤:子供たちからは、「とても面白かった」、「なかなかできない実験ができてよかった」、「実験を通して、講義で学んだことがよりわかりやすく、楽しく理解できた」、「理科が苦手だったけど、今回の教室で面白いと思うことができた」といった嬉しい感想をいただいています。講座を通して子供たちの理科(電気や化学等)への興味や関心がより高まったと感じています。 また、一緒に参加した保護者の方からは、「一緒に工作等に取り組むことで子供の意外な一面を知ることができた」、「親子の会話がさらに増えた」、「仕組みを学びつつ実際に何かを作るという体験はとてもよいと思った」等のお声をいただくことができました。 感想以外に、ロボットや建築など、他の分野に関する教室も開いてほしいというリクエストもいただいており、新たな取組として検討を進めています。
最高学府が提供する、学びを深化させる楽しさ
―取組を実施する前と後で、本取組に対する学内の反応に変化はありましたか。
深澤:講師を引き受けてくれた本学の先生方から、「一緒に楽しみながらでき、とてもよかった」、「取組を1回で終わらせるのはもったいないので、次のステップはどうしようか」、「さらに学びを深めるためには複数回の教室が必要である」等々、取組の継続化・高度化に向けた前向きな意見が多数出ており、実現に向けた検討を進めています。
―現在実施されている取組をさらに改良、拡大していく等、今後の展望やビジョンをお伺いさせていただけますか。
深澤:今後も引き続き「ものづくり」をキーワードに各種講座を展開していく予定です。また、講座等に参加して、「楽しかった」で終わらずに、帰ったあとも、「なぜだろう?」「こんな工夫をしたらどうなる?」という疑問を持ち、自分でも調べてみる、お父さんやお母さんと一緒に考えてみる、学校の先生に聞いてみる、といった学びのPDCAサイクルを回せるような企画をつくりたいと考えています。
―現在実施中の取組のほかに、新たに実施を企画している取組等があれば教えていただけますでしょうか。
深澤:子供たちの習熟度に合わせた発展的な内容を扱う講座も開設することで、エンジニアや理系に対する関心を高めたいと考えています。子供たちに取組を通じた楽しい思い出だけではなく、学んだことを深める楽しさを伝えることができるのは、大学という最高学府だからこそ提供できるものではないかと考えています。
子供たちに「理科好き」「ものづくり好き」になってもらいたい
―最後に、子供たちや、ほかの企業・団体のみなさまへのメッセージをお願いいたします。
深澤:子供たちには、「『百聞は一見に如かず』という言葉の後に続く文章として、『百見は一考に如かず、百考は一行に如かず、百行は一果に如かず』がある」ということを伝えたいです。これは、聞くだけでなく、実際に自分の目で見てみないとわからない。さらにはなぜそうなっているのかを「考える」ことが大事であり、実際にどうなのか「行動」してみたうえで、「成果」を出すまで取り組んでみようということを示していると考えています。この考え方はエンジニア「魂」にも繋がるものです。本学は研究機関でもあるため、単なる「ものづくり」にとどまらず、その裏にある原理や法則の理解も大切にしてほしいという想いも込めて、この言葉を贈りたいと思います。 企業・団体のみなさまには、「本学では「ものづくり」をキーワードに今後も「理科好き」「ものづくり好き」になるための多くのきっかけを提供していきたいと考えておりますので、一緒に取り組んでいただける企業・団体様がいらっしゃいましたら、お声がけいただければ幸いです」とお伝えしたいです。
―素敵なメッセージをいただき、ありがとうございました!
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