掲載日:2022年11月30日
第一生命保険株式会社
育業は、組織力強化につながる好機。1か月以上の男性育業取得率100%を目指す
同社を始めとする第一生命グループでは、「男性社員の累計1か月以上の育児休業取得100%」を会社目標として設定し、育業する社員が期間中の過ごし方や復職後のキャリアについて考える育業計画書の策定をはじめ、管理職を対象とした「イクボスセミナー」などさまざまな取組を実施しています。元々、取得率は高かったという同社ですが、取得期間も重視する理由やその狙いについて執行役員の落合敦子さんに伺いました。
まずは数日間でも育業することを当たり前にした。次は「1ヶ月以上」で中身にもこだわる
―男性社員の育業推進の背景と、取得期間を重視する理由を教えてください。
執行役員 落合敦子さん(以下、落合):男性社員の育業を推進し始めたのは2009年度からです。元々、女性社員が多い当社は、仕事と育児を両立させている女性社員が活躍しているという実績もあり、男性社員にも主体的に家事や育児に携わってワーク・ライフ・マネジメントの実現を図ってもらいたいという考えから、男性社員に対しても育業を推奨するようになりました。それにより取得率が90%台に高まった一方で、男性社員の取得日数は10日程度と短期間であることが課題でした。取得日数が短ければ、育児・家事スキルの習得やパートナーの産後ストレスや育児不安軽減にもつながりづらいです。世間でも男性の「とるだけ育休」が話題になっていましたが、そこは当社も課題として捉えておりました。
―「産後パパ育休」の法改正から、どんな影響がありましたか。
落合:「産後パパ育休」の法改正をきっかけに、企業として改めてこの課題に向き合うべく、「男性社員の育児休業累計1か月以上100%取得」を目標に掲げ、取組強化を図っています。
昨年度実施した社員アンケートで、「取得しづらい」と回答した社員の理由としては、「周りに迷惑をかけてしまう」といった声が多かったため、今年度からマネジメント層を対象とする「イクボスセミナー」をスタートさせるなど、育業しやすい風土づくりに向けて取り組んでいます。
―企業として、育業を推進する利点はどこにあると考えていますか。
落合:育業中は、取得者の業務を周りのメンバーがフォローする必要がありますが、それにより社員たちのスキルアップにつながっていますし、本人と周りの社員で仕事内容の棚卸しをすることで、業務効率化も図れています。また、互いに支え合い寄り添い合うことでコミュニケーションも活発化し、最終的には育業に関わらず誰がいつ休んでもカバーし合えるような強い組織になっていくと期待しています。取得する社員としても、育業をきっかけに地域コミュニティに入って人脈を広げることや育児経験を通じて、幅広い視野を得られるきっかけになるかと思います。そして復職後は、育児と仕事を両立するために新たな視点で働き方を見直すことで、働き方改革にもつながるなど、さまざまな波及効果が見込める取組であると考えています。
育業中の過ごし方から復職後の働き方まで上司と話し合う
―当事者・上長間での制度説明や取得意向のヒアリングはどのように行われているのでしょうか。
落合:パートナーの妊娠が分かったら、当事者と上司が対話を行います。上司から制度の説明、取得の意向確認を行い、その後、育業中の過ごし方や業務引継ぎに向けた計画を立てます。計画的な育業に向けては、『育業計画書』の作成・人事所管への提出をルールにしています。計画書のポイントは2つあります。1つ目は、育業をどのように進めるのか、期間に加えて、自分なりの育業への向き合い方と、復職後含め、今後、どのようにワークとライフを両立していくか、ということを自身で描きます。2つ目は、誰にどんな仕事を引き継ぐのか、業務の棚卸をします。当社では、定期的・継続的に上司と社員の1on1の機会を設けており、日常的に相談しやすい環境づくりを心掛けています。報告が早ければ、早く取得計画を立てられますし、周りのメンバーにも引継ぎしやすいので、日常的なコミュニケーションや意識醸成も、スムーズな取得のための好循環を生み出していると考えています。
―『育業計画書』にある「取得期間の過ごし方」や「今後の両立プラン」について、社員の皆さんはどんな内容で提出されていますか。
落合:例えば、「産後直後や、パートナーが復職するタイミングでしっかり育業したい。復職に向けた準備ができるよう、自分が主に育児を担当する」「自ら経験することで、子育てしながら働く周りの女性社員の大変さを理解できる上司になりたい」など、組織での立場や家庭によってさまざまです。
また、育業中の過ごし方についてパートナーと話し合って具体的に計画してもらうため、『子育て・家事分担のチェックシート』もお渡ししています。育児や家事のタスクを把握して臨む方が、期間中の過ごし方もより有意義なものになるとの考えからです。これらの資料を基に上司とも対話し、育業への臨み方や復職後のワークライフバランスのマネジメント方法、今後どんなキャリアを目指していきたいかというところまで計画を立てます。企業として、ただ制度説明をして取得意向を確認するだけではなく、復職後のキャリアについてもしっかりと向き合うことが社員のwell-beingにつながると考えておりますので、取得計画を本人任せにせず、組織としてともに考えていくための姿勢や仕組みも大切にしています。
マネジメント層の意識改革を図る『イクボスセミナー』が大好評
―組織の意識醸成のため、どのような取組をされていますか。
落合:育業に関する対談会や各種セミナーなどを実施しています。対談では、育業する社員とその上司という組み合わせで「育業中のサポート体制の築き方」について語ってもらい、9か月の育業経験のある男性役員と若手社員との組み合わせでは、「未経験者に知ってほしい育業中の大変さや良かったこと」を語ってもらうなど、取得者と非取得者との意識の差を埋められるようなテーマで発信しました。撮影した対談記事は社内イントラネットで公開しているのですが、視聴率も良く、社員たちから好意的な内容のコメントも多く寄せられています。
―セミナーはどういった内容ですか。
落合:『プレパパセミナー』は主に取得予定の社員が対象で、出産・育児中のタスク紹介をするなどかなり実践的な内容です。アンケートでは、「育児も家事も今までやっているつもりだったが、全然できていないことが分かった。パートナーにも負担をかけていたので、話し合って分担していきたい」という声が挙がっています。
また、男性の育業推進のためには「育児や家事は女性がするもの」といったアンコンシャス・バイアスの克服が重要であると考えています。今年度は、育業をきっかけに誰でもいきいき働けるような組織運営とそのきっかけにしてほしいという思いから、マネジメント層の意識改革につながるよう外部講師を招いて『イクボスセミナー』を実施しました。法改正のポイントやその背景、育業する世代の考え方に加え、取得しやすい心的安全性の高い組織づくりのためのアクションなど、組織運営のヒントが得られる内容で、全国の所属長をはじめとするマネジメント層は受講必須としました。
―マネジメント層からの反応はいかがでしたか。
落合:かなり好評でした。実施後のアンケートでは、「管理職だけではもったいないので、チーム内で見直し、対話したい」といった声や、「育業に限らず、日頃から有休をきちんと取得し、休みやすい職場にしていきたい。まずは自分が1か月の育業する」と宣言する社員もいました。
育業推進のためには、まず意識から変えていく必要があります。法改正があったことは知っていても、その背景や社会課題まで分かっていなければ次のアクションに結びつきません。そのため、私たちが情報発信し、意識改革から行動変容させていくこと。それを繰り返すことで、社内風土の醸成につなげたいと考えています。
「育業」の取組を社内だけでなく他社やお客様にも広げていきたい
―東京都の「育業」応援企業への参画後、どのような変化や反応がありましたか。
落合:男性の家事や育児への参画は社会的にも当たり前であると受け止め、当社の男性社員にも「育業したい」「取得者を応援したい」という雰囲気が広がってきていると感じています。「育業」という愛称に関して、実際に育業した社員から「育児が想像以上に過酷だったので、本当に“休み”ではなく業務の一環なのだなと感じた」という声を聞き、周りに育業中の社員が増えていることで、取得への意識も向上していると思います。その結果として、育業日数が昨年と比較して増加傾向にありますし、パートナーが出産した直後の取得者数も昨年比較で5倍近く増えるなど、良い変化として表れています。育業する社員のパートナーからも、「出産後は一人で子育てしなくてはいけないと不安に感じていたが、育業を決めてくれて一緒に子育てできることに安心した」といった声が挙がっていると聞いております。
―今後、「育業」を通じてどのような取組をしていく予定ですか。
落合:「育業」という愛称変更を、男性の育児・家事参画への意識を変えるきっかけの一つとして社内で浸透を図ろうとしているところです。その上で、社内イントラを活用した制度の周知や対談の掲載は引き続き行っていく所存です。また、社内だけでなく社会全体にもその意識が派生していってほしいという思いがあるので、当社も少しでも寄与できるよう、名刺やオンライン会議の背景にも育業ロゴを入れるといった取組も構想中です。これからも取得者個人だけでなく、会社一丸となって取り組んでいきたいと考えています。
記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。
紹介した企業・団体
-
第一生命保険株式会社
- 住所
- 東京都 千代田区有楽町 1-13-1
-