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  • 育業促進

掲載日:2024年1月12日

味の素A G F株式会社

男女ともに安心して働き続けられる職場環境の整備が、全社員への家庭と仕事の両立支援につながった道のり
経営判断が施策加速の後押しに

味の素A G F株式会社(以下、「味の素A G F」という)は、出産を機に退職する女性が後を絶たないことに危機感を持った人事部門を中心に、より働きやすい会社を目指して2010年頃から多くの取組を行ってきました。それらの取組が、現在の男女ともに育業しやすい環境につながってきたといいます。今回は、当初からの様子を知る人事部の小椋比呂美さんと、3ヶ月間の育業から復職したばかりの開発研究所の谷三郎さんにお話を伺いました。

人事部の小椋比呂美さんと開発研究所の谷三郎さん 本社AGF cafeにて

女性が安心して働き続けられる職場を目指した取組が、男女問わず家庭と仕事の両立支援につながっていった

―味の素A G Fでは男性育業率が向上するなど男性育業が社内に浸透してきているようですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

人事部人事グループの小椋比呂美さん(以下、「小椋」):実は、男性の育業だけにフォーカスした取組というのはしていません。2010年頃、結婚や妊娠、出産を機にした女性の離職の多さが問題になっていました。今でこそ女性の育業取得率は100%、復職率は90%ですが、当時は出産したら退職する方が多くて、ワーキングマザーで営業職の方は2名ほどしかいませんでした。味の素A G Fが好きで総合職として入社した方が出産を機に退職する姿を多く目にして、本当に残念に思っていました。そこで、まずは女性が安心して働き続けられる職場を作っていこうと、2010年に取り組み始めたのがその第一歩です。

―それから約13年が経った現在では男性育業者が増えるまでに状況が変わったとのことですが、ここまでの間にどのような取組をされてきたのでしょうか。

小椋:まず、最初に始めたのが、人事部の方から妊娠した女性の上長と面談をして、妊娠中の女性への配慮を具体的に呼びかけるなど、個別の地道な対応でした。ファーストステップは、妊娠などのライフイベントがあっても辞めずに働き続けられる職場作りでした。
2013年になると取組効果もあり、女性の離職率が随分改善してきました。そこで次に、仕事と子育ての両立という課題に取り組むべく、両立支援に力を入れていきました。具体的には、地域勤務制度(転居を伴う転勤がなく一定の範囲のエリアで勤務ができる制度)を導入したほか、看護休暇、短時間勤務などを法令で定める基準よりも大幅に拡充するなど、矢継ぎ早に施策を打っていきました。これは社員に対して会社が子育て支援に前向きだというアピールにもなりましたね。
2016年頃になると家庭と仕事の両立ができる社員が増えてきましたので、次のステージに向けてステップアップするために、理想のキャリアを歩むことと家庭とを両立させ、生き生きと働き続けられるための環境整備にシフトしていきました。

―こうした取組は、どのようにして男性社員の育業につながったのでしょうか。

小椋:2017年頃からは、女性だけ、子育て社員だけが活用できる制度ではなく、誰もが活用できる制度にして、働きやすい環境にしていかねばならないと考え、女性や子育て社員だけにフォーカスした制度にならないように強く意識して取り組みました。みんなに必要な制度や仕組みを作り、みんなが生き生きと働ける環境が何かを調べて実現していくということを積み重ねてきた結果、男性も女性も自らが望む働き方やキャリアを選べる環境が生まれたと認識しています。男性の育業希望者が育業することは自分が望む働き方を実現するということで、今ではこれがごく自然なことになっています。

―現在では、育業取得率や育業期間はどのような状況でしょうか。

小椋:育業取得率は、女性が100%、男性が67%です。男性の取得率を低いとは考えていません。親族のサポートがあるなどして、必ずしも自身が育業しなくてよい家庭もあるためと捉えています。
育業期間について、男性では1週間の方がいれば数ヶ月の方もいて幅が広いのですが、ここ最近は1ヶ月以上育業する方も非常に増えてきています。
これらの数値を見ていくことに加えて、育業を希望する社員が一人でも多く育業できていることが重要だと考えています。

理解浸透の苦戦から一転、働き方改革を掲げたトップメッセージから一気に加速

―ここまで十数年の間、女性の出産育児環境から男性の育業まで制度を整えてこられたと思うのですが、スムーズに進んできたのでしょうか。

小椋:とにかく、最初のとっかかりが大変でした。これまでにない取組でしたので、まずは代表取締役をはじめとする経営層から発信してもらいたいと思っていましたが、これがかなり難しくて実現できなかったのです。他にも役員や管理職の皆さんにも呼びかけましたが、理解を得るのが非常に難しかったです。多くの会社の経営方針にダイバーシティ&インクルージョンというワードもなかった時代です。その中で、なんとか人事部長からメッセージを出してもらいました。そうこうしているうちに時代の潮目が変わり、新しく就任した代表が働き方改革を推進する方針を前面に打ち出したのです。

―どのような変化が起こったのでしょうか。

小椋:社長講話の中で「社員の幸せが大事です」というメッセージとともに、働き方改革に前向きな姿勢が示されました。そこから、全役員が参加する毎月1回の働き方改革の会議が始まりました。そこでは、これまで経営層のメンバー同士で話す機会もなかった働き方についての詳細な話があり、何より施策を決めていく場とされていたので、次々と判断がなされ、とてもスピーディーに物事が進んで行きました。それが後押しとなり、すでに働き方改革を盛り上げていこうという機運が生まれていた人事部の活動は一気に加速しました。当時の人事部長は新しい考え方を否定するのではなく、「好きにやっていいよ、大丈夫だから」と背中を押してくれました。さらには、「少しずつ進めるよりも一気に実行していこう」と言ってくれたので、次々と施策を実行できました。働き方改革の全社的な機運が生まれてからは、制度を作り、それを利用してもらうのは意外とスムーズだったと思います。

―他に社内で理解を深めるために苦労した点や工夫したことはありますか?

小椋:まず、時短勤務も育業も「休んでいる」わけではないと理解してもらうことに苦労しました。そこで、社内全体に向けて女性社員の1日のタイムスケジュールを見せて実際に何時に何をしているのか、具体的にイメージできるように説明しました。男性社員は仕事で家にいない時間が長い場合が多く、家にいる=「休んでいる」と考えがちなところがあるので、そこの認識から変えていく努力をしました。少しずつですが、理解が深まっていきました。

育業体験談
夫婦二人だから乗り越えられた産後の3ヶ月。育業中の気づきで社会に優しい視点が持てるようになった

―御社では男性も育業しやすい環境になり、谷さんも育業を経験されていますが、いつ頃から育業すると意識したのでしょうか?

開発研究所の谷三郎さん(以下「谷」):出産が近づくにつれて、私自身の育業をいつからするか、自然と夫婦の会話になりました。パートナーと育業のタイミングなどを話して、その上で上長に、妊娠報告と合わせて、子どもが生まれたら育業したいという意向を伝えました。

―業務上のことや会社での切り出し方など悩まれたりしませんでしたか。

谷:私の場合、上長がとても理解のある人で、全くプレッシャーなどは感じませんでした。我が家はパートナーも私自身も遠方出身者なので、子どもが生まれたら頼れる人が近くにいないということは以前から意識していました。どちらかが倒れた時に家庭が回らなくなるのは問題だから、お互いに一通りの家事や育児ができないと良くないよね、と二人で話していました。

―育業をする際のハードルの一つに収入面が挙げられることがありますが、その点について心配はなかったのでしょうか。

谷:そうですね、経済的側面は意識していないと言ったら嘘になります。育業期間が短すぎたら何もできるようにならないし、長いと減収の影響が大きくなります。経済的に負担にならない私の育業期間のラインを探り、約3ヶ月と二人で決めました。

―育業中はどのようなことをして過ごされたのでしょうか。

谷:ごくごく普通の生活と言いますか、パートナーと子どもが外出できるようになってからは、散歩に出かけるなど家族との時間を多くとりました。もちろん子どもの世話も一通り行います。最近は、パートナーが友人とランチに行く時に私一人で息子を見ている日もあります。育児や家事の分担は役割を決めず、できる方がやるようにしています。二人とも家事が一通りできることで、やるのはどっちでも大丈夫という状況ができて良かったです。パートナーにしかできないことがあると、やはりパートナーの負担が大きくなってしまいますよね。
あとは、お互いの実家などに連れて行っていろんな人と触れ合わせました。子育ての方針として「人見知りしない子に育てたい」というのがあるのですが、いろんな人に会わせることができたのは育業したおかげだなと思いました。

育業中にお子さんをあやす谷さん

―3ヶ月の育業をしてみての感想を教えてください。

谷:本音を言うと育業に入って1ヶ月がたった頃に早く復職したいなと思ったこともあります。けれど今では3ヶ月では短かったなと感じています。
個人差があるのかもしれませんが、産後にパートナーの体力がひどく落ちてしまい、起き上がれない状況が続きました。そんな時にサポートができたことも本当に良かったです。二人だったからこそ乗り越えられたと強く感じています。また、二人なら精神的負担も少ない状態で親としての経験をともに積んでいけると実感しています。

―その他、育業を通じて変化したことはありますか。

谷:これまで自分は階段が使えるのに気軽にエレベーターを使っていたことを反省しました。ベビーカーを使うようになって、駅などでエレベーターを使う機会が増え、本当に必要な人が必要な時に使えないことがあると気づきました。だから今は、私一人の時は階段などを使うようにしています。これは一例ですが、子育てに関わって視野がすごく広がったし、人を思いやれる場面が増えたように思います。

育業や働き方への取組は経営課題。男女が一緒に活躍する土台を社会全体で作っていきたい

―2010年から様々な取組をされてきた中、こうして男性育業を経験された方からのお話を聞いていかがでしょうか。

小椋:もう感無量ですね。2010年当時は男性の育業ということは想像もしておらず、ただひたすら女性が妊娠しても働ける環境を作りたいと思って取組んできました。今回、こうして育業する社員や家庭との両立を考える社員が男女問わずにいるということを改めて実感しました。
さらには、育業を通じて社会のこと、周囲の方のことを考えられるようになり、視野が広がったという声を聞いて嬉しい限りです。誰もが働きやすい環境を作ることで、より優しい社会を作っていけるのだと思います。

―それでは最後に制度や風土を作ってこられた立場と、育業を経験された立場から、それぞれメッセージをお願いいたします。

小椋:育業への取組は経営課題だと思います。これからますます男性と女性が一緒に活躍する社会になっていく上で、それぞれの企業がその土台を作っていただけたらと思います。社員は会社が好きで働いているので、家庭環境によって希望するキャリア形成や働き方ができないことは残念に思うのではないでしょうか。育業に取り組むことはプラスしかないので、社員一人ひとりのことを考えて、たくさんの企業が育業を応援してくださったらと思います。

谷:まだまだ周囲では育業をしたくてもできないという話を聞く中で、自然と育業することができたことは本当にありがたいことでした。育業したからこそ経験できたことは多かったと思います。ぜひ男性も積極的に育業していただけたらと思います。

味の素A G F株式会社は、
これからも時代に合わせて制度をブラッシュアップし、
男女ともに育業しやすい職場環境を作り続けます。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

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