掲載日:2023年4月17日
株式会社丸井グループ
育業は、持続的に育児と仕事を両立するための準備期間 社員一人ひとりの多様性を尊重し、性別に関係なく活躍できる企業に
株式会社丸井グループは、「性別に関係なく一人ひとりが活躍する企業文化の実現」に向けて、2014年から男性社員の育業100%に向けた取組を開始しました。小売・フィンテック・共創投資という3つの事業を持ち、異なるワークスタイルの社員が在籍する中、2019年より4年連続で100%を達成し続け、男性社員が当たり前に育業できる組織風土が育まれています。同社が男性育業を浸透させた取組や、次のフェーズとして「育業期間1か月以上」を掲げる理由について伺いました。どうやって「男性も育業が当たり前」の雰囲気を生み出したか
~子供が生まれる社員には管理職から育業を促す声掛けを徹底~
―丸井グループでは、2019年から男性育業100%を達成し続けていますが、推進を始めた経緯を教えてください。
人事部 インクルージョン推進担当 市井亜季子さん(以下、市井):当社では企業文化の変革に向けて、「男女」「年代」「個人」の多様性の推進に取り組んでまいりました。その中で、「男女」の多様性については、「意思決定層に占める女性の割合」の上昇を目指す中で、女性が男性と等しく活躍するためには、女性だけが頑張るのではなく、男性も育児に参画し、ともに持続的に仕事と育児を両立できる体制を整える必要があるという考えから2014年より男性育業100%を目指せる体制づくりを進めてきました。
―どのような取組によって「男性育業100%」を達成できたのでしょうか?
市井:育業100%達成のためには、育業しやすい組織風土の醸成が必要不可欠です。シンプルな取組ですが、パートナーの妊娠が分かった社員に対して、上司から「おめでとう、育業いつ取る?」という声掛けを徹底したところ、「育業することが当たり前」という雰囲気が生まれました。また、育業中の様子は社内イントラネットの記事や丸井グループのコミュニティサイト「この指とーまれ!」でも公開しており、子供が生まれたら育業する、という風土が社内に醸成されていることから、4年連続で育業率100%を達成できたのだと捉えています。
―ビジネスモデルが異なる事業を持ち、4千名を超える社員を抱える貴社のようなグループ企業が男性育業100%を達成するのは容易くないと思いますが、多様性推進という方針や育業支援の取組をどのように浸透させていったのですか?
市井:トップから明確なメッセージは出しているものの、それだけでは全社的な浸透は難しく、自ら手を挙げた社員が「プロジェクト活動」というボトムアップ型の取組を2014年から実施しています。プロジェクト活動のメンバーは社内通達で募集しており、希望者には応募動機等を作文に書いてもらいます。私たちは採点者として、所属や年齢、性別を隠した状態で文章だけを読み、「この人と一緒にやりたい」という社員を選抜しています。今期のメンバーは37名で、お子さんがいる社員だけでなく、これからライフイベントを迎える20代をはじめ、幅広い年代の社員が参加しています。男性育業100%という実績も、このプロジェクト活動からの提案が大きいと捉えています。前述したように、パートナーの妊娠を報告した社員に対してマネジメント職から「おめでとう、育業いつ取る?」という声掛けの徹底も、ここから生まれた取組の一つです。
育業後も仕事と育児を両立できる多様な制度
~プロジェクトから「短日数勤務制度」が生まれた~
―プロジェクト活動から生まれた声が福利厚生や制度に反映されることもあるのですか?
市井:当社では21年度から育児や介護の事由で適用される「短日数勤務制度」(定められた休日数に加え、月間4日の休日を付与する制度)を導入しています。これも、プロジェクト活動での話し合いから「夫婦が交代で働けるようにすれば、もっと育児と仕事の両立が進むのではないか」という発想が元になっており、もっと柔軟な働き方を選択できるようにという提案がきっかけでした。
―そのほかに、育業しやすい、そして、育業から職場に復帰した後も仕事と育児を両立しやすいように、どのような制度を設けていますか。
市井:育業に関する休暇制度としては、子供が1歳2か月に達するまでに育業から復職した場合、連続した7日間を上限として有給としています。これは男女ともに対象の制度で、男性の場合はこの7日間の有給休暇と、公休や年休を組み合わせて、育業期間を長くするというケースが最近増えてきています。また、育業後も子育ては続きますが、小売事業に所属する社員は、店舗の営業時間の都合上、どうしても帰宅時間が遅くなってしまう傾向にあります。そこで、当社では小学校6年生までの子供がいる社員を対象に「時間帯限定フルタイム勤務制度」を設けており、所属する事業所の勤務パターンの中で最も早く終わるシフトを選択できるようにしました。それにより、店舗で働く社員も原則19時には退勤でき、育児や家事の時間に充てられます。それ以外にも仕事と育児の両立支援として、子供が0歳のうちに復職した社員には「子の看護のための休暇」を法定よりも2日多く付与したり、すべての企業に義務付けられている「短時間勤務制度」も、当社では3歳未満の子供の養育者という法定の適用対象年齢を上回り、小学4年生未満の子供を持つ社員を対象にしています。また、子供がいると転勤は難しいという意見もあり、中学3年生までの子供をもつ社員に対して「エリア限定勤務制度」を設けています。
育業の「取得」を目的化させない
長期育業の鍵は、早期報告によるチームのフォロー体制の構築
―男性育業100%を達成しているだけでなく、貴社が1か月以上の長期の育業も推進する理由は何ですか?
市井:当社では、 21年度から「男性は仕事、女性は家事育児」という性別役割分担意識を見直し、早くから夫婦で協力して継続的に子育てができる環境の実現を目指す「ジェンダーイクオリティプロジェクト」に取り組んでいます。多様性を推進する企業方針によって、19年に男性育業100%を達成しましたが、育業を「取得すること」が目的化してしまうようでは本末転倒です。そこで、今は産後8週以内の早い時期から、1か月以上育業することの必要性について認知促進を図っています。
人事部 インクルージョン推進担当 後藤久美子さん(以下、後藤):本来、育業期間は、出産後の早い段階から夫婦ともに育児をスタートして、育業期間が終わった後も持続的に子育てできる環境づくりのための準備期間であると考えています。そのため、当社で育業率4年連続100%を達成しても、育業期間が平均2週間では持続的な子育てのためには足りていないのではないかという考えから、育業期間も重視するようになりました。そして、実際に育業した社員からも「最低でも1か月、できれば3か月取りたかった」という声が上がっています。
市井:女性は出産後、母体のダメージもありますし、ホルモンバランスの変化から産後鬱になる可能性もあります。そんな心身ともに不安定で育児にも慣れていない時期に、子供の検診や予防接種などさまざまなタスクをクリアしていくのはかなり難しいことだと思います。そこで、「男性の育休1か月以上取得率」という方針をKPIに追加し、全社的にこの数値を追っていくことにしました。
―長期の育業を推進する中で、見えてきた課題などがあれば教えてください。
後藤:育業した社員にアンケートをとったところ、長期の育業における一番のボトルネックが「所属部署に迷惑をかけるのではないか」という“育業する本人の不安”であるという結果が出ました。2013年から取って当たり前の組織風土を醸成してきたので、この結果は予想外でした。
市井:そこで、育業に対するハードルがなくても、長期間となると個人でブレーキをかけてしまう現状に対し企業としてどうするべきかと考えました。アンケート結果から、長期の育業をしている社員は、パートナーの妊娠後、早めに育業取得の相談している人が多いことが分かりました。中には、出産後に相談している人もいるのですが、8割の方がパートナーの妊娠8か月頃までには上長に育業の相談をしていました。早めに相談できれば、所属側もチームとしてどうやって乗り越えていこうかという話ができますし、本人も安心して長期間の育業に入れます。実際、総務部の男性社員が1か月強の育業したのですが、パートナーの妊娠後、早めに相談したところ、仕事の棚卸しができ、不在中の仕事をチームでカバーできる体制の構築によって計画的に育業に入れました。
後藤:本人の不安感が長期の育業にブレーキをかけているとはいえ、キーパーソンはマネジメント職であると捉えています。当社では上司から「おめでとう、育業いつ取る?」という声掛けの徹底によって男性育業率100%を達成した実績があるので、今期からはそこに「どのくらい育業する?」という声掛けを追加することで、長期の育業を促したいと考えています。しかし、マネジメント側からすると、どうして長期の育業が必要なのか腹落ちしないと、ただ単に声掛けの徹底というだけで形骸化してしまう恐れもあります。そこで、マネジメント職に向け、長期取得の重要性と取得推進に向けた業務の進め方の理解と、早期に申告できる関係性醸成に向けたマネジメント職向け共有会を開催しました。世界の先進的な事例を基に、ジェンダーギャップ指数や幸福度といったウェルビーイングとの関連性を理解してもらうことで、声掛けにも本質的に取り組んでもらうことが狙いです。
育業はキャリアプランを描く重要な機会
一部の企業だけが取り組むのではなく、社会全体の動きに
―東京都による「育業」への愛称変更を、貴社はどのように受け取られましたか?
後藤:当社では、割と早くから女性の活躍推進と男性育業の相関性に着目して取り組んできていましたから、やはり世間も同じように捉えているのだなと心強く感じられました。「育休」という名前であっても、単なる休みではないという認識の浸透にも取り組んでいましたので、東京都による「育業」への愛称変更に非常に共感しています。
―貴社は制度整備と組織風土の醸成という両面から男性育業を推進されていますが、そこまで注力して取り組まれるのはなぜですか?
後藤:男性育業に関する取組は、多様性推進の一つの軸であると考えています。社員たちの多様性を尊重することで、それぞれが自分の可能性に対してチャレンジし続けられる環境になり、イノベーションが起こりやすい組織として企業価値を上げていきたいと考えています。当社も意思決定層に占める女性の割合はまだまだ低いので、ここを改善していくことで組織内の多様性の実現を目指しているところです。
市井:育業は、新しい知見を手に入れる機会でもあると捉えています。育児を経験した社員から、多様な立場の顧客ニーズや課題を理解する学びにもつながったという声が寄せられているように、こういったライフイベントは社員がキャリアプランを描く上で重要な機会になると思います。そこで当社では、ライフイベントを迎える前の26歳の社員に対して「キャリアデザイン研修」というものを実施しています。本研修は、結婚・出産等のライフイベントを迎える前の早い段階で、”男性は仕事、女性は家事育児”といった「性別役割分担意識」の見直しと「女性特有の健康課題」について、正しい知識をインプットした上でキャリアを考えることを目的とし、男女共に受講しています。自分の人生といっても、未来を具体的にイメージすることは誰もが難しく感じますが、今後起こり得ることに対して正しい知識をインプットしてもらうことで、自分らしいキャリアやライフプランを描くというところをゴールとしています。
―今後の展望についてお聞かせください。
後藤:育業の「取得」自体が目的化してしまうのではなく、育業を本当の意味で継続できる組織にしていきたいです。社員たちには、長期で育業してパートナーと協力しながら育児と仕事を両立できるライフスタイルを確立してもらいたいと考えています。そのためには、当社のように一部の企業が育業を推進しても、社会は変わらないと思います。当社の社員のパートナーの8割が社外の企業に勤めているので、ほかの企業も足並みを揃えて取り組めれば、もっと大きな動きになるのではないでしょうか。私たちの取組を発信し続けることで、少しでも社会貢献につながるといいなと思っております。
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