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東京都

  • 育業促進

掲載日:2024年1月19日

大日本印刷株式会社

今までの常識に囚われたままでは、新しいものを生み出す事にはつながらない。
当事者意識を持って「育業」に取り組むことが、未来のあたりまえをつくる

2018年に、ダイバーシティ推進室(現在はダイバーシティ&インクルージョン推進室。以下、D&I推進室)を設置し、2020年には「当事者意識」をキーワードに誰もがダイバーシティの一員であるとする取組をスタート。男性の育業についても、ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)を推進する上での基本方針「多様な働き方の実現」「多様な人材が活躍できる風土醸成」において、大切な要素と捉え、様々な取組でD&Iを推進。そんな大日本印刷株式会社の社員の方々にお話を伺いました。

(写真左から)社員の制度面などで連携を図る、人事本部 労務部 富田晃仁さん D&I推進室 藺牟田有梨さん 人事本部 労務部 平井美純さん D&I推進室 本田忠さん

大日本印刷株式会社(DNP)のブランドステートメント、「未来のあたりまえをつくる。」育業を「あたりまえ」にするために、トップコミットメントを発信し、社員の心理的安全性が高まった

-2020年の男性育業取得率は54.3%でしたが、2021年の時点では82.4%と、大幅に上昇しています。なにかきっかけがあったのでしょうか?

D&I推進室 本田忠さん(以下、本田): 男性育業取得率がまだ50%台だった2020年の12月に、社長自らが「男性育休100%宣言」をトップコミットメントとして発信しました。これは社員一人ひとりが「当事者意識」を持つ、という当社のダイバーシティ経営中期ビジョンに則ったものです。男性社員も、当事者として育業し、新たな気づきを得たり、生産性の高い働き方の実現に意識を変えていこうというメッセージが込められていて、取得率につながったと思います。
併せて、全国の各事業部と多数のグループ会社で構成している、DNPグループD&I推進委員会で、男性育休に関する議論や取組事例の展開を重ねながら、DNPグループ全体でも育業が促進されています。DNPでは、2022年度の男性育業取得率は83.6%でしたが、2025年度には100%を目指しています。

-育業促進の取組として社内の支援サイトを立ち上げ、育業の体験談を中心に社員同士の理解を深めているとのことですが、詳しく教えてください。

本田: 「男性育休100%宣言」に伴い、「男性育休100%宣言~サポートtheアクション~」と称する、男性社員の体験談や疑問点に応える支援サイトを開設しました。
育業中の過ごし方から、仕事の引継ぎ等に苦労した点、仕事をしながらどのように子育てをしているのかなど、上司のコメントも交えながらリアルな声を掲載しています。子育てに関わることで、「時間の意識がまったく変わった」「自分が家族のために何が出来るのか考えるきっかけになった」などの、意識の変化があったという声が届いています。
また、育業の希望をいつ頃職場に伝えたか?というQ&Aに対して、「妊娠が判明してすぐ」「3か月以上前」などの回答も聞かれ、伝えやすい環境になってきていると実感しています。

育業中に苦手だった料理にもトライし、出来ない家事を無くしたという営業企画職の男性育業体験談

出産前から職場復帰前後まで、様々な角度から仕事と育児の両立を図るための支援セミナー、「カンガルーの会」で、パートナーと共に育業への安心を育む

-育業支援サイト以外にも、オンラインで、パートナーと共に職場復帰プログラムなどに参加できる「カンガルーの会」というセミナーを開催されているそうですが、どのような内容でしょうか?

D&I推進室 藺牟田有梨さん(以下、藺牟田): 「カンガルーの会」は、2009年から開催している「仕事と育児の両立支援セミナー」になります。このセミナーは、1年以内に出産を考えている「プレパパ・プレママ向け」と、職場へ復帰直前の「育児中のパパ・ママ向け」の2つのプログラムに分けて開催しています。オンラインでやっている事もあり、参加者が年々増えている状況です。
「プレパパ・プレママ向け」は、「出産前後のホルモンバランスの乱れ」や、「育業に対する心構え」など、男女問わず事前に知っておいた方が良い内容を網羅しています。また、「育児中のパパ・ママ向け」には、「事前にパートナーと、生活リズムや育業の役割分担、職場復帰後のキャリアをイメージしておこう!」など、夫婦でチームとして、子育てに取り組むための構成になっています。

-社員の方々にとって、会社発信の実践的なセミナーに参加できるのは心強いですね。その他、セミナーの特徴についてなにかあればお聞かせください。

藺牟田: この「カンガルーの会」は、DNPグループの社員に限らず、社外のパートナーでも参加できることが特徴です。また、パートナーと一緒に話す時間を設けているので、お互いの考えを共有するきっかけ作りの場にもなっています。男性がどの位の期間、育業するかなど、パートナー間の意識のズレなどをその場で話し合い、すり合わせし、解消につなげています。
「カンガルーの会」は、職場に復帰する社員が多い時期を見据えて、実施日を決めています。パートナーが復職するタイミングで男性に育業を勧める、などの現実的な提案も行いながら、社員を後押ししています。このセミナーを通して、会社が男性の育業を促進していることをアピールすることで、そこで安心感を得られた、という社員の声があがっています。

様々な制度の精査と見直しに取り組み、さらに育業を促進する制度を提供することで、育業の取得UPを目指す

-「ライフサポート特別休暇」や、保育施設料補助、次世代育成手当など、様々な子育て応援制度を社員に提供していると伺いましたが、会社の制度について具体的に教えていただけますか?

人事本部 労務部 平井美純さん(以下、平井): 産前休暇について、DNPでは8週間前から取得することができます。6週間前からは健康保険組合より出産手当金が出ますが、8週間産前休暇を取る場合、2週間の無給分は「ライフサポート特別休暇」制度によって補う事ができます。
「ライフサポート特別休暇」は、弊社で行っている、いわゆる失効年休積立制度で、最大年間40日取れる有給の制度になります。育業中の無給部分は雇用保険でも補うことができますが、100%では無いため、「ライフサポート特別休暇」制度で補うことにより、収入減を抑えることができます。
また、育業の対象期間と回数について、国は子どもが1歳になるまでの間に2回まで分割可と定めていますが、DNPでは子どもが2歳になるまで何回でも取得可能です。産後パパ育休についても同様に、何回でも分割で取得可としています。男女問わず、1回目の育業開始から5日目までは有給とし、通常の国の制度を上回る、育業を促進するための制度をDNPでは設計しています。

-最大で年間40日を保障するライフサポート特別休暇などは、社員にとってかなり手厚い制度のように見受けますが、社員の反応はいかがですか?

人事本部 労務部 富田晃仁さん(以下、富田): 「ライフサポート特別休暇」を、育業中の無給部分に使って良いという内容は、育業をフォローアップする施策として2023年の2月から実施しています。これにより育業の際、弊社ではもともと1回目の育業開始から5日目までは有給としていますが、そこに「ライフサポート特別休暇」をプラスすることで、合計最大45日間を有給にすることができます。社員の反応はこれからという段階で、現状、男性の育業平均取得日数は18.8日ですが、更なる社員の取得日数UPを期待しています。
ちなみに、次世代育成・介護支援手当は、家族手当として、18歳未満のお子さんなど、対象となる扶養家族1人につき月15,000円を支給、また、保育施設料補助制度として、お子さんの年齢など条件はありますが月5,000円を支給しています。
現状、対策を講じている様々な手当を認知してもらって、社員一人ひとりに利用してもらいたいですね。

多様な人材が活躍できる風土の醸成に向けた取組~ダイバーシティウィーク~

-2023年の2月に第3回目となる、 D&Iを推進するための社内イベント「ダイバーシティウィーク」を2週間に渡り開催されたそうですが、どのような内容だったのでしょうか?

藺牟田: 約20種類のプログラムのうち、育業に関する面白い取組の一つとして、インクルージョンしている上司(育業を後押しする上司など)のことを、「インクル上司®」と名付けた、社内の実例に基づくアニメーションを制作しました。
再現ドラマではなくアニメにしたことで、「自分に重ねやすい」、「親近感が湧く」といった声が寄せられました。さらに、DNP社員でも普段見る事ができない工場の現場を、アニメだからこそ再現できたため、現場の雰囲気を知る機会としても好評でした。
また工場現場だと育業しにくいといった話がある中、課長の後押しを受けて1か月半もの育業が実現したという良い事例を、プログラムを通して紹介することができました。

育業を後押しする上司を「インクル上司®」と名付けた、社内の実例に基づくアニメーション

-これまで行ってきた育業を支援するための取組や、子育て支援制度を遂行してきた中で、苦労した点や、今後の課題点などあればお聞かせください。

本田: 2020年に当事者意識の醸成を目指して経営層の理解を得ていた事もあり、社長が「男性育休100%宣言」を出した時点から、スピード感を持って育業が浸透できたと思います。しかし、現場レベルでは、男性育業に対する理解はしていても業務との兼ね合いなどもあり、取得日数の増加など行動に現れるには引き続き促進が必要です。

富田: 確かに、今後の課題のひとつとして現場レベルでの、会社のしくみ作りがあります。
代替要員の確保、制度面でのフォロー体制など、誰もが気兼ねなく育業できるしくみが十分に確立されていないことにより現場で育業しにくい部分があり、上司も苦労しているのではないかと思います。例えば、製造部門などでは、代替要員を必ず確保する、この人しか出来ないという作業を無くすなど、現場目線に立って、会社側がどこまでボトムアップできるかが課題ですね。

富田: 既に取り組んでいる事例としては、マネジメント改革のひとつで、チームでストレッチ目標(高い目標)を立て、部下と1 on 1のコミュニケーションを図っています。お互いの考え方を理解することで、職場の風土が変わっていくとともに、上司の意識改革も目的としています。

藺牟田: 現状、お子さんが小学6年生まで利用できる、所定外労働免除等を含めた育児短時間勤務制度の取組の中では、今までは制度面だけで終わらせていたところを、全社員に対してeラーニングの教材を用意しています。育業に対する社会情勢や背景をはじめとし、「しっかり対話できていますか?」といった職場内でのコミュニケーションに関することをメインにコンテンツを作成し、配信しています。
また、今後は育業をすることに対する、上司・部下共にあるアンコンシャス・バイアスに気づき、対処するための研修も予定しています。

本田: 社内で会社がD&Iに取り組んでいると思いますか?というアンケートを取った際、9割以上「思う」という回答を得ていて、これまでの取組や発信が社員に届いていると感じます。しかし、それぞれの職場の風土、環境で差があると思うので、その差を埋めていきたいですね。

次世代へつなげるために~自分の子どもや家族と共に、社員の意識へ訴えかける

本田: 次世代育成の観点から、2023年8月に開催した「ファミリーフレンドリーデー」というイベントについてもお伝えします。
これはDNPグループの社員のご家族やお子さんにお仕事、就業意識を育んでもらうとともに、社員のモチベーションや職場参観で訪問した組織のコミュニケーションを高めるためのイベントです。2021年はオンラインでしたが、2023年の8月にリアルに行うことができました。
当日は「P&I (Printing&Information) ラボ」という社内のショールームで会社の製品やサービスを実際に体感したり、お子さんごとにオリジナル名刺を作って、現場で名刺交換をしました。社員にも好評だったようで、参加した社員が当日の体験やお子さんの気持ちをグラフィックレポートに描いて送ってくれました。
お子さんやご家族が、ファミリーフレンドリーデーの体験を通して、DNPって凄いね、お父さん、お母さんって凄いねと思ってもらうことで、改めて社員が自分の仕事の大切さに気付き、また社員と家族のコミュニケーションを図り、自身のワークライフバランスについて考える機会になっています。

P&IラボでのDNPの製品・サービスの体験の様子
「ファミリーフレンドリーデー」に参加した社員が描いたグラフィックレポート

-社員に育業について考える場を提供する様々な取組は、御社社外でも参考になると思います。これから育業の促進を考える企業に対し、アドバイスをお聞かせください。

本田: 私達は、「社員を大切にし、大切にした社員によって企業が成長し、その社員が社会をより豊かにしていく」という、DNPグループにおける人的資本ポリシーに沿って育業を推進してきました。これからも会社、社員が一丸となって取り組み、その成果を開示していくことで、会社の枠を超え、社会全体に、育業が「未来のあたりまえ」へつながっていけば嬉しいですし、その実現を目指しています。
育業の取組を始めていく上で、まず経営層が理解を含め、行動に移していただくことは大切です。さらに、社員一人ひとりが当事者意識を持てるかどうかがポイントです。全社員が育業を自分事として捉えられるしくみ作りが大切ではないでしょうか。

DNPグループは、新しい価値の創出をしていくために必要な、多様な働き方の実現、多様な人材が活躍できる風土醸成を目指しています。
育業という意識改革がそのきっかけになると考え、今後も取組を推進していきます。

インクル上司®はDNPの登録商標です。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

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