本文へ移動

東京都

  • 育業促進

掲載日:2024年3月22日

株式会社N J S

法改正をきっかけに生まれた育業推進チームによる本気の育業推進。
5年間で男性の育業取得率50%アップ、平均期間50日増加を実現した取組とは。

生活に欠かせない上下水道等のインフラに関するコンサルティング事業等を行う株式会社N J S(本社:東京都港区)は、社員の多くが専門技術を持ったコンサルタントという専門家集団の企業です。社員の男性比率が高い中、これまでは男性が育業するという意識はほとんどなかったとのこと。同社がいかにして短期間で育業取得率を向上し、かつ育業の期間を伸ばすことができたのか、同社人事総務部課長中塚理子さんと同部積田良人さんにお伺いしました。

人事総務部課長 中塚理子さん(左)と同部 積田良人さん(右)

形式的ではなく、本当に意味のある男性の育業を定着させたい。その想いを背景に「男性育児休業取得率100%宣言」をし、徹底して会社の姿勢を伝えることに

―2023年11月に「男性育児休業取得率100%宣言」を出しておられますが、会社全体の育業に対する姿勢について教えてください。

人事総務部課長 中塚理子さん(以下、「中塚」):弊社は2021年に創立70周年を迎えました。その際、新たに「健全な水と環境を 次世代に引き継ぐ」というパーパスを掲げました。これは未来への約束として考えており、これから先の時代を背負う子供たちをしっかり守っていこうという思いがベースにあります。
そして、弊社はコンサルタント集団で人が命の企業ですので、社員が働きがいを持って仕事をするには充実した家庭生活が欠かせません。男女問わず家族みんなで家事や育児を行うなど、幸せなプライベートを過ごしていただくことが重要だと思っています。

―今回「男性育児休業取得率100%宣言」を出されたのはなぜでしょうか。

中塚:こうしたパーパスを掲げた翌年には法改正※があり、人事総務部として色々と対応を進めてきました。男性育業の状況を気にしていた社長からもヒアリングを受けましたが、その時点で既に男性の育業取得率は100%になっていました。それを知った社長からは、今後も男性の育業取得率100%を継続していこうという方針が出され、対外的に「男性育児休業取得率100%宣言」を出し、会社の決意を示すこととしました。
※2022年10月育児・介護休業法の改正

―つまり、男性社員への育業推進の取組は法改正がきっかけだったということでしょうか。

中塚:そうですね。弊社は社員のほとんどが土木技術職ということもあり、男性社員が非常に多く、また、男性が育業するという雰囲気や文化はほとんどありませんでした。そこを変えようと2020年頃から育業の推進に取り組み始めていたところ、2022年の法改正を機に社内の機運が高まりました。人事総務部としても、形式だけではなく、しっかり本質的に男性の育業を推進していくことを決め、現在は育業推進チームの私と積田の二人が全社的に育業の推進を行っています。

人事総務部 積田良人さん(以下、「積田」):弊社では、パートナーの妊娠又は出産の報告のあった社員に対して育業に関する意向確認を行い、同時にアンケートを採っています。アンケートは、育業を希望する社員用と、育業を希望しない社員用の2種類を用意しています。育業を希望しない社員への質問事項は、「育業しない・できない理由」・「希望通りに育業をするための課題は何か」などです。その回答を見ると、「周りの理解を得られないと思った」・「業務調整がうまくいかなかった」・「人手不足」といった意見が上がってきました。ちなみにこのアンケートは、育業推進チーム以外には開示しないというルールのため、安心して本音を語ってもらえていると考えています。こうした声を参考にして、育業を推進するための次の施策や制度の検討を行っています。

―男性の育業に関して、これまでの状況や最近の実績について教えてください。

中塚:2019年の男性の育業取得率は50%、育業した期間は平均で21日程度でした。その翌年の2020年頃から男性の育業促進に向けて、社内報による育業を経験した男性社員の事例紹介等、様々な取組を始めました。その結果、2021年度の男性の育業取得率の上昇につながったと考えています。2022年の法改正の後押しもあり、2023年になると男性の育業取得率は100%を達成し、育業した期間も平均で71日と実績が大きく伸びました。短期間でここまでの状況になるとは思いませんでしたが、育業したいという潜在ニーズがあったのだと感じました。

2023年11月28日付け同社プレスリリース「男性育児休業取得率100%宣言について」より抜粋

育業促進のための積極的な働きかけが育業ニーズを顕在化させ、男性の育業を促進

―なぜ、男性の育業取得率100%を達成でき、期間を伸ばすことができたのでしょうか。

社内報「NJS Letter」で育業中の様子や育児休業制度について紹介 2021年1月号

積田:社内報などを通じて、男性の育業に関する情報を少しずつですが継続して発信しました。その結果、男性社員でも育業ができるという意識を持ってもらえたと思います。もちろん対外的に「男性育児休業取得率100%宣言」もしましたので、これも意識の醸成に効果がありました。
また、パートナーが妊娠したと申し出た社員には、育業推進チームが面談して育業の意向確認を行うことを徹底しています。育業したい時期や期間、給付金や社会保険料免除等の家計の話、育業以外の独自制度である慶弔休暇や積立休暇など、個人の希望や事情をもとに、ベストな育業スタイルとなるよう、一緒に考えています。この取組が浸透し、最近では、パートナーの妊娠を申し出るタイミングも早くなってきたので、当事者である社員自身が育業について考える時間をしっかり取れています。

中塚:面談の中で、「パートナーを支えることを考えると、この希望期間では足りないかもしれない」といった話をすることがあります。妊娠・出産によるパートナーの負担の大きさをしっかり伝えて、後悔しない育業ができるようにして欲しいと思っています。

積田:その他には、人事総務部として様々な部署と積極的にコミュニケーションをとり、社員にお子さんが生まれるという情報が入ってきやすい環境にできるように努めています。そして、情報が入れば、できるだけ早くその社員に声をかけるようにしています。

愛情曲線を紹介したオリジナルハンドブックで、育業の意義への理解が深まった

―御社において、育業推進の取組の中で効果的だったことを教えてください。

中塚:弊社では育業に関するオリジナルの「育業ハンドブック」を作っています。開いてすぐの1枚目のコラム欄で、男性が育業するメリットを女性の愛情曲線※を使って説明しています。
愛情曲線について簡単に説明しますと、妻の夫への愛情は子供の出産を機にぐっと下がる傾向があります。ただ、その後に夫婦二人で育児をした場合はそうでない場合に比べて愛情が回復する可能性が高いというものです。
この説明は非常にインパクトがあるようで、短期間の育業を考えていた社員も、もう少し長くしようと思い直すことが多いです。
また、上司の立場である社員の中には、自身は子育てにほとんど関わってこなかったものの、今になって愛情曲線の表す結果を噛み締め(笑)、部下の育業を応援したいという反応もあります。
※東レ経済研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長渥美由喜著『夫婦の愛情曲線の変遷』を引用

同社オリジナルの育業ハンドブックの表紙と愛情曲線を解説したコラム欄

―育業を推進していく中で印象的なエピソードがあれば教えてください。

中塚:ある事務所の男性社員6人に次々とお子さんが生まれ、6人全員が同時期に育業をしたことです。1週間から数か月間と育業をした期間はバラバラでしたが、6人全員が育業するということで、非常に衝撃的な出来事でした。最初は混乱もあり、人事総務部は現場の業務のことを知らずに育業を推進してばかりいると苦言を呈されることもありました。ただ、希望している社員が育業できるように支援するのが私たちのミッションですので、何とか現場の社員達に育業の大切さを伝えて、理解してもらいながら進めていきました。

積田:実は先日、その事務所の所長と部長をイクボスとして取材してきました。印象に残ったのは、「男性社員が育業することに抵抗がないわけではなかったが、若い社員に気持ち良く働いてもらうことが重要だと考え、前向きに彼らの育業を応援できた」という言葉でした。
地道に育業を推進してきたことで、上司もイクボスとして育業を後押ししてくれたということを感じて嬉しかったです。
また、育業から復職した社員の顔つきが変わり、エネルギーに満ち溢れて仕事をしている姿を目の当たりにして「いい顔になった。育業を支援できて良かった。」とも言っていました。育業は、仕事の充実にもつながるということをもっと広めていきたいです。

育業による一時的な人員減少への対応において物心両面での課題は残るものの、引き続き新しい文化が醸成されるまで走り続ける

―取組を進める中で大きな課題となったことはありますか。

中塚:まずは、育業する社員の上司の理解を得ることに苦労しました。弊社はコンサルタント集団ということで、「この技術者だから」と受注が決まったプロジェクトも少なくありません。そうした中で、上司は育児参加よりも仕事を優先してきた世代なので、育業してクライアントに迷惑をかけてしまうのではないかという懸念が根強かったです。育業の重要性については理解が進んできているにも関わらず、です。

積田:現場からは、人事総務部宛てに人員補填や業務配分に関して懸念の声が上がりました。この辺りは経営層に相談しながら、現場にも理解を求めながら進めている状況です。この課題は本当に難しいと感じていて、解決策が見つかっている状況ではありませんが、引き続き検討しているところです。

中塚:現在育業している社員が今後ステップアップして上司に当たるポジションになってくれば、理解は更に広がっていくと思っています。

―育業を推進した背景として他に何かありますか。

中塚:新卒、中途いずれも女性の採用が増えてきたことですね。技術職はどうしても男性が多くなる傾向があるのですが、ここ最近は女性が増えてきて、採用する人材の約半分は女性になってきています。
女性が出産・育児をしやすい会社を考えた時に、それは男女関係なく男性も含めた誰もが育児しやすい会社であるはずだと考えています。

積田:これからは男女を問わず育業する社員が増えていくと思うので、各所との調整も然り、当事者のフォローも含めて支援していきたいと思っています。
ちょうど先日、妻が産休から復職するタイミングで、男性社員がバトンタッチで育業を開始するというケースがありました。しかも育業する期間は妻より長いということで、新しい育業のスタイルが生まれてきたと感じました。

―今後取り組みたいことはありますか?

中塚:まだ私のアイデアベースですが、「孫育て」支援もしていきたいと思っています。実は弊社の定年は70歳なんですね。そうすると定年までに孫が生まれることも想定されます。「孫のお迎えに行かなきゃ」という人も出てくるかなと思って、そういったニーズに対応する準備もしていきたいです。

育業は社員にとっても会社にとっても前向きな取組。会社の風土や文化にとらわれず、前向きに取り組むことがより良い社会につながる

チーム力が高く取材での息もピッタリの中塚さんと積田さん

―最後に、これから育業を推進していこうと考えている企業様や、まさに今、育業推進に取り組んでいらっしゃる人事担当者様にメッセージをお願いいたします。

積田:個人的なことですが、私自身は独身で子供もいません。しかしながら、この業務を通じて育業した社員の声や実態を知り、育業の重要性を強く感じています。
例えば、男性社員からの「育業できて本当に良かった」・「育業したからこそ復職後は仕事によりエネルギッシュに取り組めた」という声や、周囲からの「育業した社員のパフォーマンスが復職後に上がった」という評価が伝わってきています。
これらのことから、家庭でしっかり子育てに関わることで生まれた新たな自信や責任感が、仕事に反映されているのだと思いました。
ぜひこうした事例を知っていただき、育業に前向きに取り組んでいただけたら嬉しいなと思います。

中塚:弊社は70年以上続く古風な面も多い(笑)文化の会社です。こうした会社でも男性の育業取得率100%を達成できるということを、多くの企業様に知っていただければ幸いです。
従来の子育てに対する考え方や価値観を覆すのが難しいと感じる企業様も多いと思います。育業することはそれぞれの人が家庭を大切にすること、育業を応援することは家庭を大切にしようと踏み出した人を思いやることであり、育業する当事者にとっては自分の人生を大事にすることにもなります。素直にフラットに受け取れば、育業は誰もが良いことだと考えていただけることだと思いますので、諦めずに少しずつ取り組んでいただければと思います。必ず社員の幸せにつながり、会社にとっても良い結果をもたらし、その先に日本全体がより良い社会になることにつながっていくと信じています。

株式会社N J Sは、事業と育業を通じて、
より良い環境を次世代に引き継いでいきます。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

紹介した企業・団体