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東京都

  • 育業促進

掲載日:2023年1月13日

株式会社エフスタイル

育児を理由にキャリアを諦めなくてよい会社にしたい。だから育業支援は必然

株式会社エフスタイルは社員のライフイベントに重きを置いた制度設計や組織づくりに注力し、社員の育業を支援しています。社員の育児をどのように会社全体の関心事として浸透させ、育業を推進しているのか、代表取締役 宮田 志保さんに、インタビューしました。

(写真後列中央)代表取締役 宮田 志保さんと、出社中の社員の皆さん

育業後も完全テレワークで育児とキャリアを両立

―育児とキャリアの両立を図るようになった経緯を教えてください。

代表取締役 宮田志保さん(以下、宮田):そもそも、私自身が妊娠を理由に退職した経験から、ライフイベントを理由に、社員がキャリアを諦めなくてもいい会社を創ろうと当社を立ち上げました。
勤めていた広告代理店は、残業が習慣化し終電で帰るのは当たり前で、始発を待つことも日常茶飯事でした。30年前の当時はそうした働き方に違和感を持つ社員も少なく、私も仕事にやりがいを感じていましたし、不満も抱いていませんでした。しかし、結婚し妊娠をすると、この働き方では仕事を継続できないことが分かります。このまま続けたいと思っても、当時の風潮や労働環境では、身体的にも大きな負担がかかり退職せざるを得ませんでした。
一旦専業主婦になったものの、1年後に個人事業主としてすぐに復帰しました。おかげさまで仕事も増えてきたので、「キャリアを諦めずに働ける会社を創ってしまおう」と、当社が生まれました。ですから、エフスタイルが育業はもちろん、ライフワークバランスを促進しているのは必然と言えます。

―それでも広告物などを扱うクライアントワークでは、相手方の要望や都合に合わせて働く性質上、育児との両立は簡単ではないと思います。

宮田:例えば営業時間外は、応対は翌日になることを前提に案件を進行しています。もちろん、我々の不手際などで緊急に対応する必要がある場合などは別ですが、設立当初からなるべく定時外に仕事の連絡を取らないようにしてきました。すべての企業がこうした働き方を大々的に推進できているわけではありませんから、少しずつ得意先とコミュニケーションを重ね、「エフスタイルは遅い時間には連絡が取れない」とご理解いただけるようになりました。

―働き方改革関連法の施行が2019年4月ですから、2007年の設立当初から長時間労働の是正や柔軟な働き方を実現していたというのは、かなり先駆的ですね。

宮田:2010年に「バケーションスタイル」という制度をつくりました。私を含め育児中の社員もいましたので、春・夏・冬休みなど学校の休みに合わせ、子育て中の社員には在宅勤務を許可しました。また社員数の増加に伴い、妊娠、介護、ご家族の転勤など、いろいろなケースが生まれてきました。そんな時、ある社員が長野市在職のパートナーと結婚することになりました。本来であれば長野に支店はありませんので退職する流れとなるのですが、本人からなんとか仕事を継続できないかと相談を受けました。会社としても優秀な人材を失いたくありませんので、在宅勤務制度の見直しを行いました。

―在宅勤務制度は育業だけでなく、多様な働き方の実現につながると思いますが、コロナ禍以前では前例も環境もほとんどないなか、どのように実現されたのでしょうか。

宮田:執筆のみであれば、自宅で黙々と仕事ができるかもしれませんが、編集となると社内外でのさまざまなコミュニケーションが必要です。該当する社員はディレクターですので、「本当にテレワークで仕事が完結するのか」という不安もありました。そこで、まずはコミュニケーションを円滑に行うために、隣の席にいるように声がけができるバーチャルオフィスシステムを導入し、本格的にテレワーク環境を整えました。

オンライン上のバーチャル空間に、オフィスを再現するシステム。「電話中」「集中!」「打合せ中」など、各社員の業務状況が直感的に把握できる。例えば保育園をお休みした子供の対応を行っているときや休憩中は「離席中」と表示し、即応ができないことを伝えられる。
オンライン会議機能を使って、オフィスから在宅勤務中の社員と打合せをする様子

宮田:また、テレワークシステムを導入してから1ヶ月間は試験期間として、オフィスで疑似的に在宅勤務状態を作りました。隣室にて業務を行い、不都合があればその都度改善し、最適な運用方法を整えた結果、離れていても支障なく仕事が遂行できることを確認しました。
ただ一方では、テレワークを利用しない社員との不平等感も浮き彫りになりました。特に「育児中の社員は周囲がフォローしなくてはいけない」という意識は、該当しない社員にとって負担や不満となっていました。不平等感をなくさなければ、本当の意味でのライフワークバランスは実現できません。そこで全社員がそれぞれに在宅勤務を選択できる「働き方登録制度」を設けました。
在宅勤務制度の導入のきっかけになった社員は、今でも長野市内からテレワークで勤務し、二度の育業も経験しました。試行錯誤の末に生まれた在宅勤務制度ですが、実現させた甲斐があったと安堵しています。

育業への理解、協力しあう風土、「社員の子供はみんなの子供」というマインドをどのように培ったのか

―テレワークや育業を促す一方、業務量の偏りが起きないようにする上でチーム編成にはどのような工夫をされているのでしょうか。

宮田:当社では、ディレクター、エディター、校正・校閲などを行う品質管理、制作進行と担当を分けてプロジェクトを遂行しています。チーム編成の工夫としては、同じ環境(例えば1歳から2歳の子供がいるなど)の社員を編成しました。互いの気持ちが分かりますので、相互扶助の関係が成り立っています。また、社内全体において親が育児を行うことは当たり前と捉えていますので、保育園や学校がコロナで休園となり、オンライン会議中に、お子さんの泣き声が聞こえたり姿が写り込んだりしても社員が驚くことはありません。「子育てと仕事はつながっていてもいいんだ」というメッセージにもなり、育児を応援する風土づくりにも役立っていると考えています。

―お子さん同伴での社員旅行もされているそうですね。

宮田:2015年から在宅勤務制度の導入や育児や介護に対し柔軟な働き方を可能としていたこともあり、パートナーが社員に甘え「理解ある会社にいるんだから、そっちが休んでよ」と、子育てを押し付けられてしまうと悩む社員がいたのです。そんな社員を癒すべく、子連れOKの社員旅行を企画しました。陶芸や美術館鑑賞、ホテルでのエステなど、日頃子供がいてはゆっくり受けられないサービスを体験し、美味しいご飯を食べて大いに盛り上がります。また、先輩社員の子供と若手社員らが触れ合うことで、「社員みんなで子育てをする」「社員の子供はみんなの子供」という社内風土にもつながっています。今でも、オンライン会議でお子さんがチラッと写り込んだ際に、大きくなった姿に他の社員が喜ぶなんていうことも多々あります。

鎌倉への社員旅行では子供と一緒に陶芸を体験。制作した陶器はそれぞれが自宅で使っています。

育業後の復職率100%を支えている社内制度

―育業しやすい環境や社内風土をつくる工夫について伺ってきましたが、エフスタイルは育業からの復職率100%も掲げています。どのようにして育業からの復職率100%を実現しているのでしょうか。

宮田:入社時に人事コンサルタントを講師に招き、自身のキャリア形成について考える機会をつくっています。その際に、仕事だけでなく結婚や出産などライフイベントも念頭に置き、社会人としてどのように成長したいかキャリアプランを描きます。
育業から復職した社員に対しては、復職研修を実施します。講師は前出の研修のほか、考課査定なども担当している方なので、社員との関係も近く、マンツーマンで生活のリズムを調整していくアドバイスや、仕事との両立に関わる悩みなどを聞き、解決に導いていきます。また、育業復帰後の2か月程度は、スロースタートで現場に戻ります。ポジションも役割も育業前と変わりませんが、本人の希望により勤務時間を短くしたり、業務量を減らすなど、少しずつ仕事のリズムを取り戻せるよう社内全体で温かく見守っています。このスロースタートを実行している背景には、先輩たちの経験が活きています。先輩たちが復職する際に感じた、「これまでどおりの働き方にはすぐに戻れない」という感覚を大切にし、どうしたらストレスにならずに元のペースにまで復帰できるか社内にて検討しました。また、子育てならではの不測の事態も多々発生します。保育園での発熱など、予期せぬ事態にも焦らず対応できるよう十分に配慮しながら仕事を調整しています。

就労時間についてですが、裁量労働制ではない事務職は、育児はもちろん都合に合わせて、自身の裁量で勤務時間を月単位で調整できるフレックス制度を導入しています。授業参観や歯医者の予約などで利用する社員も多く、好評を得ています。

「育業」という言葉を知って、すごく嬉しかった

―「育業」という愛称を聞いて、どのような印象を受けましたか。

宮田:育業の愛称を知って、率直に嬉しかったです。育児休業中の母親は、決して休んでいるわけではありません。育業という愛称によって「自宅で育児という仕事をするんだ」というイメージがつけやすくなるのではないでしょうか。
フリップに、「育業は家族形成の始めの一歩」と書きました。結婚して2人で始まった家族は、出産を経て3人へとステージを変えます。育業期間は、今後どのような家庭を築きたいか、子育てをしながらパートナーと考える期間になるといいですね。
私自身の経験を振り返ると、今となれば子育ては楽しいことばかりでした。特に乳児の成長は、昨日できなかったことが突然できるようになったり、毎日が新しい発見です。こんなに楽しい体験を父親が知らないのは勿体ない。「育業」によって、男性の育児が当たり前となり、親として一緒に育っていくことを期待しています。

株式会社エフスタイルは、育業は人として当たり前のことと捉え、家族形成の始めの一歩であると考えています。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

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