掲載日:2022年11月30日
一般社団法人TOKYO PLAY
すべての子供の遊びを保障し、子供の遊びが大切にされる社会を目指す
一般社団法人TOKYO PLAY では、子供が豊かに遊べる環境をつくり、保障し、子供の遊びが大切にされる社会の実現に向けた啓蒙活動を行っています。地域住民や行政と連携して進める取組の意義について、代表理事の嶋村仁志さんにお話を伺いました。
子供が遊ぶことが大切にされる社会の実現を目指し、TOKYO PLAYを設立
―嶋村さんが、子供の遊び環境づくりの取組を始めた背景、理由、きっかけについてお伺いさせてください。
代表理事 嶋村仁志さん(以下:嶋村):私は元々、世田谷区の冒険遊び場や川崎市の施設で子供や地域住民と関わる遊び場で仕事をしていたのですが、もっと広く、子供が遊ぶことの大切さを社会に伝えたいと思う転機があり、TOKYO PLAYを設立しました。
その転機とは、以前国際NGO団体IPA(International Play Association)で東アジアの地域副代表を務めていた頃のつながりで、London Playの代表と話す機会を得たことです。London Playは、市民が道路を解放して、子供の遊び場をつくるのを伴走支援したり、子供の遊びに関わるロンドン市内の行政担当者向けの朝食勉強会を開催したりする事業をしていたのですが、代表から、「私たちは子供たちに遊ぶことの大切さを伝え、子供たちの遊びを保障すること、そしてそれを社会課題として世の中に認知してもらうために活動しているんだ。」という話を聞き、衝撃を受けました。その言葉のとおり、保護者を含めた地域住民や行政、企業、またそれを支える人たちがアクションを起こせるようにするための啓蒙活動をしていました。また、その代表から、「すべての子供たちが思う存分に遊べるようにする活動は、社会インフラとして必要だ。ロンドンでもこうした活動があるのだから、世界的な大都市である東京でも必要なのは当たり前だ。」という話を聞いて一念発起し、2010年に任意団体として設立、2016年に法人化しました。
イギリスにおける「みちあそび」をヒントに、東京で道路を使った地域の遊び場つくりを進める
―現在TOKYO PLAYさんで実施している取組について教えてください。
嶋村:London Playと同様に、市民が道路などを正式な手続きを経た上で一時的に開放して遊び場をつくる「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト(以下みちあそび)」という取組を実施しています。昔と違い、今の東京では、道路を遊び場として自由に使うことは少ないですが、道路という生活に身近な遊び場を通して、親しみを持って地域住民と顔なじみになる中で人と人とのコミュニケーション、地域との関係性の構築といったことをたくさん学ぶことができると思います。地域との温かな関係性や学びを育む一助になれたらと思い、東京での取組を広げています。
―私は地方出身なのですが、振り返ってみると、道路で遊んでいて、時々悪いことをしたときには近所の方から怒られたり、謝ったりする中で学んだり、地域における関係性が構築されたりしたという記憶がございます。東京では、そうした風景を見ることは少ないかもしれません。
嶋村:そうですね。私も小さい頃、そのようにして育ってきました。最近では、近所付き合いが少なくなっており、世帯や年代を超えた斜めの関係を持つことが減っていると思います。親や兄弟姉妹といった家族以外との、斜めの関係性というのは、子供の成長において重要であり、また、地域におけるゆるやかな顔見知りを増やすことは、いざというときの共助においても重要だと考えています。
―London PlayやTOKYO PLAYの「みちあそび」には、元となったアイデア等があるのでしょうか。
嶋村:「みちあそび」は、イギリスのプレイストリートやストリートパーティをモデルにしています。プレイストリートとは、住宅街の道を遊び場や子育て空間兼多世代交流の場として開放する活動のことです。ストリートパーティとは、英国王の結婚や王室の行事など国レベルでのお祝いの際に、イギリス各地の道路で、自治体の承認を得て開かれるパーティのことです。
イギリスでは、以前は家と子供の遊び場が近くにありましたが、最近は親が遠くの公園で子供を遊ばせ、それから買い物に行って晩ごはんの支度をするといった慌ただしい生活をするようになりました。そんな中で「昔は、「ごはんよー!」と呼べば帰ってこられる場所で子供が遊べるような子育てができていたよね」という近所の人との会話から、イベントはなくとも車の通行を止め、歩行者天国を実施したいという住民の活動からプレイストリートが始まりました。イギリスでは既に1,000か所程度で実施されており、道路使用許可申請の簡素化を進める自治体も70程度あります。
日本でも1960年頃から交通量が増える大都市で住宅街での子供の交通事故を防ぐ動きが始まり、地域住民からの陳情で「遊戯道路」ができました。当時は都内でも800か所以上あり、盛り上がりを見せましたが、今では車の保有台数も増え、公園が整備されていったことで、遊戯道路は自然と使われなくなっていったようです。
地域住民や行政が主体となって取組に参画することが、子供を大切にする社会をつくる一歩になる
―「みちあそび」を企画する際に、TOKYO PLAYさんが大切にしてきたことを教えてください。
嶋村:「そのまちに暮らしているからこそ経験できることを市民の手でつくる」ということを大切にしてきました。「みちあそび」の企画は、私たちが主導するのではなく、そのまちに暮らしている住民のみなさんが主導して企画を進めていただくようにしています。住民のみなさんが企画し、動く中で、住民のみなさんが「自分たちが主体となってまちを楽しい場所に変えられることができるんだ」と感じてもらうことが大切です。もともと、遠くからたくさんのお客さんを呼ぶような性格のものではないので、決して何かすごいことをする必要はありませんが、「何ができるのか」を自分たちで考えることが重要だと思います。住民のみなさんに主体的に関わってもらうためには、取組をどう進めていくのか、どんな動きが必要になるのかを知ってもらう必要があるため、事前に丁寧に取組の説明をした上で、より多くの人が参画できる方法を一緒に模索するようにしています。
―自分たちのまちを自分たちで面白くするというのは、聞いているだけでワクワクしますね!そうした企画をする際に、行政との連携も重要になりそうですね。
嶋村:はい。行政からの協力が得られるようになると、道路や商業施設を利用するための申請がスムーズになったりするので、地域住民の参加機会を増やすことにつながります。実際に、渋谷区ではスポーツ部スポーツ振興課が「渋谷どこでも運動場プロジェクト」という事業を展開しており、これまで50か所で80回以上の道路や公共空間を利用した取組を実施できています。
―渋谷区では80回以上の企画が実施されているのですね!そのような前向きな協力をしてもらえるようになったきっかけがあったのでしょうか。
嶋村:2017年にTOKYO PLAYの活動を東京新聞のこどもの日の特集に取り上げてもらったことがきっかけです。渋谷区の職員の方がその記事を目にし、渋谷区が持つ基本構想のひとつ「思わず体を動かしたくなる街」づくりの実現に活かせないかとお声がけいただいたことから、渋谷区との連携が始まりました。さらには、渋谷区における活動を目にした他の区市町村からもお声がけをいただき、「みちあそび」の輪が広がっていることを実感しています。
市民による主体的な取組に理解が広がるようなノウハウの提供
―現在のように「みちあそび」が広まるまでに、ハードルや苦労もあったかと思います。それらに対しては、どんなことを取り組まれたのでしょうか。
嶋村:今もそうですが、「みちあそび」を実施する上で最も大きなハードルとなるのは、道路使用許可を取る手続きです。届け出先である各地域の警察署には、「地域が良くなるための取組であれば積極的に相談に乗るように」という旨の通達が警察庁から出ていますが、私たちのような市民グループが道路使用許可を取ること自体が稀なことなので、警察署によっては前例がないという点で敬遠されてしまうこともありました。
こうした状況を変化させていくために、事業の実績を集めた事例集を作成したり、実施までのノウハウをガイドブックにまとめたりしながら、プロジェクトの概要をより分かりやすく説明できるような資料づくりを進めてきました。また、取組の実施場所を闇雲に選定するのではなく、町会などに相談しながら、車や人の通行量が少ないところを選び、近隣へのごあいさつを欠かさないようにするなど、より安全に、安心して「みちあそび」を実施するために欠かせない配慮をみなさんにはお願いしています。
「みちあそび」を通して、地域への愛着が生まれる
―実際に「みちあそび」に参加した地域のお子様や保護者のみなさんから、どのような感想や意見が寄せられていますか。
嶋村:「わたし、この道で遊んだよね!」と、「みちあそび」が実施された道を通るたびにお父さんお母さんに報告してくれる子供の声が届いています。世田谷区内のある商店街では、主催する保護者のグループにつながりのある子供たちが、「みちあそび」の企画自体に参画しています。そこでは、子供たちがポスターを描いて掲示し、鬼ごっこの企画を提案して実現にこぎつけています。こうした実例を聞くと、地域への愛着に繋がっているのだなとうれしく感じます。
地域住民からの反響としては、「みちあそび」の場となった商店街のお店の店主から、「参加した子供が会うたびに挨拶してくれるようになった」といった話や、「自分の住んでいるまちにこんなにたくさんの子供がいたのかと驚いた」といった感想をいただきました。
他にも、団地で「みちあそび」を実施した際には、団地に住むおじいちゃんが、手作りのおもちゃを子供に見せたいと道で広げていたところ、子供たちとの交流ができただけでなく、そこを通りがかった大人が声をかけてくれて、新たな関係性が生まれたケースもあり、地域交流の起点になっていることを実感しています。
―そうした交流が実際に生まれているのは、本当にうれしいことですね!参加者だけでなく、参加者以外からの反響もあるのでしょうか。
嶋村:雑誌の取材依頼や、台湾からのテレビ取材の依頼をいただきました。海外からの反響があったときは驚きましたね。また、北海道札幌市や静岡県浜松市、福岡県宗像市といった東京都以外の地域からも「私たちの地域でもみちあそびを企画したい」というお声をいただき、取組を実施する上で重要となるノウハウを提供しました。
―「みちあそび」の輪が、様々なところに広がっているのですね。
嶋村:そうですね。イギリスでは、ある地区で実施されている「みちあそび」を見た人が、自分の地区でもやりたいと言って広がっていくので、ある地域では気軽に移動できる範囲内で、毎週どこかで「みちあそび」が実施されているという状態になっています。コロナ禍ということもあり、東京では2年程度は取組が落ち着いていましたが、最近では少しずつ実施の相談をいただくようになり、復調の兆しが見えています。イギリスのように、毎週どこかで「みちあそび」が開かれるようになるまで広がっていったらいいなと思っています。
行政との連携をさらに深め、地域の特性に合わせた「みちあそび」をたくさん企画していきたい
―TOKYO PLAYさんの今後の展望やビジョンをお伺いさせてください。
嶋村:今後は、子供の心理的なケアとしての「みちあそび」へ発展していってもよいのではないかと考えています。例えば、災害発生後は仮設住宅や避難所における生活を余儀なくされ、心理的に窮屈な思いをすることも多いので、災害時の遊べる場所の確保は重要だと考えています。子供が簡単に遊べるものを防災グッズとセットで用意しておくなど、「みちあそび」で使われているようなコンテンツを拡充し、適切にカスタマイズしていけるような取組も生まれていったらよいのではないかと考えています。
また、「みちあそび」は、まちづくり、子供・子育て支援、防災・防犯、商店街活性化、団地活性化など様々な可能性を秘めていますが、そうした側面から自治体との連携をさらに深めて、地域のみなさんがより気軽に「みちあそび」を企画できるようになったらと思います。イギリスでは、一定の基準を満たせば、1回3時間までの道路使用許可をその都度ではなく、年1回の申請とするなど、行政が住民主体の「みちあそび」を支援する枠組みが生まれています。東京でも、そのようなサポートに関心を持つ自治体と連携し、「みちあそび」の輪をさらに広げていきたいですね。そして、すべての子供の遊びが保障され、子供がコミュニティの中で育っていくことが大切にされる社会に近づけていきたいと考えています。
すべての子供が遊べる環境を提供することで、子供たちの健全な成長を支える
―最後に、子供たちや、企業・団体の皆様へのメッセージをお願いいたします。
嶋村:子供たちには、「遊ぶことはどんな子供にも与えられた、自分で自分を育てる「いのちのしくみ」です。もっともっと、遊んでください。」と伝えたいです。また、それを見守る大人のみなさんには、「子供は遊ぶことで育つ」ということを知っていただき、共に温かく見守っていく輪を広げていきましょうと伝えさせてください。
企業・団体の皆様には、「私たちTOKYO PLAYと同じ志を持った企業・団体様と、ぜひ一緒に取組を行いたいです」と伝えたいです。私たちの取組は、すべての子供たちが参加できるよう、無償で実施しています。加えて、保護者による申込や定員制による制限を基本的には設けていません。これは「遊びにお金はかからない」というメッセージを伝えたいためであり、同じ想いを持って取り組んでくださる企業・団体の皆様とご一緒できたら、大変嬉しく思います。ぜひご検討ください。
―素敵なメッセージをいただき、ありがとうございました!
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