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東京都

  • 子供を大切にする気運醸成

掲載日:2022年3月1日

キヤノンマーケティングジャパン株式会社

子供たちが笑顔で思い出を形に残す、その手助けができれば

キヤノン製品および関連ソリューションの国内マーケティングを行うキヤノンマーケティングジャパン株式会社と文具や画材のメーカーであるぺんてる株式会社との協働によって生まれた『校舎の思い出プロジェクト』。統廃合などで取り壊される小学校の校舎をキャンバスに見立てて子供たちが絵を描き、その作品と制作過程を写真で記録する取組です。

校舎をキャンバスに、子供たちの発想力をサポートする協働

―サステナビリティ推進部で社会貢献活動を担当されている広田由実子さんにお伺いします。『校舎の思い出プロジェクト』の立ち上げ経緯を教えて下さい。

サステナビリティ推進部 広田由実子さん(以下、広田):きっかけは、取り壊しが決定したとある小学校からぺんてる株式会社(以下、ぺんてる)に、「最後に子供たちへ何か思い出に残せることができないか」と相談が入ったところからです。そこで生まれたアイデアが、校舎全体をキャンバスに見立てて、子供たちが自由に絵を描くということでした。そういった経緯から、作品はもちろん活動全体を記録して残すためには協力企業が必要なのでは、という理由で我々キヤノンにご相談いただき、協働する事になりました。弊社はカメラを貸し出し、簡単なカメラ教室を行い、写真を大判ポスターやフォトブックにして小学校へ寄贈しています。

―それぞれの企業が得意とするところで役割分担されているのですね。

広田:企業の特色を取組に活かしつつ、「ぺんてるが思い出をつくり、キヤノンは思い出を残す」という協働イメージです。2014年に始まった取組ですが、私は2019年からこのプロジェクトに参画し、何度も現場に足を運びました。

―学校との連携はどのように進めていらっしゃいますか。

広田:まず依頼をお受けしましたら、我々とぺんてると学校で全体の打ち合わせをします。ぺんてるとの役割分担はできているので、その後の進行は我々キヤノンとぺんてるがそれぞれ学校側と進める形になっております。

キヤノンマーケティングジャパン 広田由実子さん 

子供たちだけじゃない、地域の人々も笑顔になる取組

―参加された子供、また卒業生および近隣住民方々の反応はいかがでしたか。

広田:子供たちはもちろん、大勢の卒業生たちや地域の住民など、小学校というのは誰にとっても、たくさんの思い出が詰まった大切な場所です。統廃合はもちろん、校舎の建て替えも含めて、その事実だけを捉えると寂しいことに違いありません。しかし、だからこそ有終の美を飾るかのように最後に華やかなイベントを実施するこの取組は、大勢の人々から好評を持って受け入れられました。

―地域の方々に対してもポジティブな効果があったということですね。

広田:いつも卒業式の直前や取り壊しの間際にイベントを実施するのですが、事前に卒業生や地域の方々にも声をかけてくださるケースが多く、大々的な催しになることが多いですね。コロナ禍以前は、200人近く集まってくださることもありました。あらゆる年代の卒業生たちが集まるので、イベント後にはあちこちで同窓会が開かれたそうです。友人同士や地元の結びつきを強めるという意味でも役立っていると感じています。

―小学校に関係ある方だけにとどまらないイベントになっているのですね。

広田:こうした経験を踏まえて「小学校は一番地域に根ざしている施設」であることを再確認し、そこでイベントを実施することは、子供たちに思い出を残すだけではなく、地域に貢献することでもあると捉えることができるようになりました。

落書きではなく“作品”を描いてもらう工夫

―実際に絵を描いている際の子供たちの様子を教えてください。

広田:校舎の壁に落書きなんて、普段であれば怒られる行為だということを子供たちは知っています。

「本当に描いちゃっていいの?」
「全部やっていいの?」

そんな言葉が飛び交うほど、最初は戸惑うことが多いのですが、誰かが突破口を開くと一気にみんなでワイワイ楽しんで描き始めます。そのうちに作業の順番を待っている他の学年から、

「僕たちはいつできるの?」

というような声も聞こえてくるほど、このプロジェクトを楽しんでくれています。

一斉に描いていく子供たち

広田:子供たちには自由に伸び伸びと描いて欲しいと思っています。しかし、単なる落書きであっては作品として残りにくいので、“校舎にありがとうの気持ちを込めて”など、学年ごとにテーマを決めてしっかりと下絵も描いてもらうなど、工夫しながら誘導しています。

実際に子供たちが描いた作品

広田:子供たちの感性を活かしつつさりげなくぺんてるの担当者が背景色など全体のトーンなどをアドバイスしていきます。

「まずはカメラを体験してもらう方がいいのでは」という発見

―思い出プロジェクトの一環であるカメラ教室について、工夫した点を教えてください。

広田:“子供たちの感性”という意味では、壁画の絵と同様に重要なのが写真撮影です。カメラは貸し出しますが、実際撮影するのは子供たち自身です。そのために、事前にカメラ教室も開いて撮影技術について学んでもらいます。

資料(右図、資料一例)を活用しながらカメラの撮り方を学ぶ子供たち

広田:一眼レフカメラなんて、今まで触ったことのない子供たちが大多数ですから、当初はカメラの使い方をレクチャーしていました。しかし、今の子供たちはスマートフォンやタブレットの操作や写真撮影に慣れているからか、すぐに操作に慣れるので驚きました。背面の液晶モニターを直接タップしてピントを合わせたり、ズームにすることができるのですが、そのあたりの操作方法なんて私よりもスムーズなくらいです。だから最近では操作方法よりも、アングルの決め方や、ユニークな写真の撮り方などを主に教えています。

実際にカメラを使って撮影体験

―教える内容も時代とともに変わっているんですね。

広田:上述のとおり、当初はカッチリとしたカメラ教室でしたが、子供たちの慣れが予想以上に早いので、徐々に教える内容が変わっていきました。説明を重ねるよりも、まずは手にとって体験してもらうのです。それは弊社としても、子供たちの知識や興味対象を知ることができる、いい機会になりました。なにより、初めての一眼レフカメラ体験でカメラを好きになったり、自分でも欲しがったりする子供が何人もいるんです。

―カメラ撮影の際の子供たちの様子を教えてください。

広田:イベント本番では、みんな楽しそうに撮影してくれていますね。友達を撮るときなんて、私たち大人や先生方が撮るよりも写真の表情がいいんです。それに私たちが思いつかなかったアングルで撮ります。大人とは違う視点を持っている子供たちの感性からは学ぶこと多いです。
カメラ教室は、その学びを反映させて「カメラの操作方法」ではなく「写真の撮り方」を重視する形に徐々に変えていきました。

コロナをきっかけに低コストの仕組みを構築し、より敷居の低い取組へ

―コロナ禍で取組内容を変更した部分はあるでしょうか。

広田:『校舎の思い出プロジェクト』は全国的に話題となりました。少子化による小学校の統廃合が進んでいる影響も手伝って、現在は全国各地からたくさんの応募が集まります。コロナ禍になって大々的なイベントが難しい状況になりましたが、色々と工夫してイベントを開催できるようにしています。カメラ教室はリモート会議を使って事前に先生に説明して、カメラを郵送するだけにしました。感染拡大防止に対する配慮から始まった方法ですが、例えば遠方の小学校に通うには相応の時間とコストが必要であったため、今後もリモート会議を有効に活用するなどして、効率的に進められればと思っています。

―企業間連携における工夫や苦労した点などについて教えてください。

広田:やはり異なる企業様との協働ですから、お互いの業種への知見が浅いため、どちらがどの部分までを担当するのかの詰めであったり、両方が窓口を持っていたので、小学校に双方から同じ連絡をしてしまったりと、最初は戸惑うこともありました。ただ現在は“この部分はキヤノンの範疇なのでこちらが担当する”“この件はどちらが小学校に連絡するのか”といった細かい部分まで役割分担を明確化し、クラウドサービスを使って進行状況の見える化をはじめ、徹底した情報共有をするなどの工夫を重ねています。今ではスムーズな運営ができるようになりました。

今後は『校舎の思い出プロジェクト』だけにとどまらない協働イベントの開催も視野に入れているそうです。子供たちを中心とした大勢の人たちに「記憶と記録を残す」ことは、意義のある活動であることはもちろん、企業の協働としてそれぞれの特色や強みを生かした取組として参考に出来るのではないでしょうか。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

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