掲載日:2022年3月1日
株式会社 佐藤製作所
『子供向け金属加工体験教室』を通して、子供たちにモノづくりの楽しさを訴えたい
株式会社佐藤製作所が定期的に実施する『こども向け金属加工体験教室』は、子供たちにモノづくりの楽しさを学んでもらい、さらには夢を与えるきっかけにもなるユニークな取組です。また金属加工業界のイメージアップにもつながっています。
今まで遠い存在だったプロの職人が、マンツーマンで教えてくれる
「金属加工などを主とする昔ながらの町工場って、今まで決してイメージがいいとは言えませんでした。いわゆる3K労働(きつい・汚い・危険)だと思われることが少なくなかったし、また昔ながらの職人は男ばかりで、腕は良くてもとっつきにくい。私はそのイメージを変えたいと思いました。自社の認知度を向上させるだけでなく、この業界のリアルな姿をもっと知ってもらいたいという気持ちもありました」(佐藤常務)
佐藤製作所の常務取締役を務める佐藤修哉さんの想いが結実したそのひとつの象徴が、『こども向け金属加工体験教室』です。小学生を中心とした子供たちを対象とした、機械や手作業による金属加工体験で、同社で普段使用している本物の工具を使って、現場で働く職人がマンツーマンで教えてくれます。金属表面を綺麗に磨く。手作業でねじ穴をあけて、ねじで固定する。クリアラッカー(塗料)で綺麗な見た目に仕上げる。こうした金属加工の基本的な作業を体験してもらいながら、過去には金属製のペン立てと、文鎮を製作しました。
子供向けの体験教室開催や女性の積極的な登用で業界に新風を吹かせる老舗製作所
東京・学芸大学の商店街に軒を連ねる地域密着型の佐藤製作所は、創業65年目を迎える老舗の金属加工工場です。金属の銀ロウ付け溶接を筆頭に、職人が手作業で行う溶接技術に長けています。かつては放送通信機器の部品生産が主でしたが、現在は医療用機器や音響機器の部品など、幅広いジャンルで同社の製品が使われています。規模は小さいながらも、日本のモノづくりに欠かせない老舗製作所です。常務取締役の佐藤さんは3代目として、会社の未来をいつも考えてきました。
「現在同業種のどこを見渡しても、後継者不足や、人材が定着しないなどの悩みを抱えています。私たちの工場はもちろん、業界が廃れていくこと自体が私にとって寂しいこと。『こども向け金属加工体験教室』を通して、この仕事に興味を持ってくれる子供たちが増えて、将来的には就職先の候補になる人が増えればいい。社会的にも意義のあることだと考えました」(佐藤常務)
もともと佐藤製作所は、若手や女性の職人を積極的に採用しており、現在15名いるスタッフの約半数は女性です。2021年度は「東京都女性活躍推進企業」の大賞を受賞し、町工場の現場に、新風を送り込んでいます。『こども向け金属加工体験教室』でも、男性従業員ばかりにならないように、可能な限り一人は女性従業員が担当に入るようにしています。
体験教室がきっかけで“モノづくり”に目覚める
以前、体験教室に参加した小学校4年生のもとひろくんとお母様に、感想や興味を持ったことについて聞いてみました。
「工場に初めて来た時、鉄を曲げる機械(ベンダー)で、曲がらなそうな鉄がゴムみたいに曲るのが不思議に思った。ねじの穴を開ける作業とか手こずったところはあったけれど、とても楽しかった。普段使っているものがこういうところで作られているんだ、と思ったし、モノを大切にしなきゃいけないとも思いました」(もとひろくん)
「初めて参加した時によっぽど楽しかったのか、学校帰りにまでこちらにお邪魔するようになりました。元々モノづくりに興味があったようでしたが、それが体験教室でさらに加速したようです」(お母様)
実際、子供たちからの評判は予想以上に上々でした。例えば、もとひろくんは、もともと機械が好きで、工作も大好きでしたが、プロの現場でのモノづくりを体験したことにより、更に機械工作作業に夢中になったようです。体験教室ではペン立てを作りましたが、その後、自分で閃いた傘立てのアイデアを工場へ持ち込み、夏休みの自由研究として作ったそうです。
「傘立てのアイデアを相談したら、佐藤さんは真剣に話を聞いてくれました。最初はもっと違うカタチだったけど、“そのカタチは難しい”と言われたので、この傘立てになりました。とても気に入っていて、電車の中でも傘が立つのが嬉しかったです」(もとひろくん)
その製作した傘立てはなんと「東京都児童生徒発明くふう展」にて優秀賞を受賞したのです。
「すごいですよね。好きになったときの子供の行動力、発想力は我々プロも学ばされるところが多々ありますね」
と佐藤さんも舌を巻くほどです。自分のアイデアが認められたもとひろくんはこうした経験を踏まえて、「将来はロボット研究者になりたい」という夢を持っているそうです。『こども向け金属加工体験教室』に象徴される佐藤製作所の取組が、優秀なエンジニア(研究者)を生み出していくものになるのかもしれません。
子供たちに教えることで、もっと“安全”への意識が高まりました
再び佐藤常務にお話を伺います。通常業務と並行して体験を開催するための工夫とそこへの想いについて教えください。
「通常業務とは別にやる以上、また子供たちのスケジュールを踏まえると、どうしても土日に開催しなければなりません。弊社はワークライフバランスを重要視し、基本的に土日は休日にしていて、極力残業もなくすよう心がけてきました。そうした中で土日に教室を開くことは、少なからず従業員に負担をかけているのは事実です。従業員の理解の下で開催出来ていますが、今後も継続的な活動を目指し、会社として仕組みを作っていこうと思っています」(佐藤常務)
従業員の松井さん、高橋さんにも体験教室での子供との接し方や工夫している点などについて聞いてみました。
「私は子供が好きなので、とても楽しいです。子供たちが活き活きと作業している姿を見たら私も元気になれました。子供と接する時は、私がしゃがんだりして“子供と同じ目線”で話しかけるようにしています。上から目線で教えるのではなく、常に同じ目線に立って、一緒に何かを作っていく接し方が大事だと思いました」(松井さん)
「工具や工作機械など、工場内には危ないものが多いので、子供たちが怪我をしてしまわないように、何をおいても安全を最優先に考えています。子供たちに安全に作業をしてもらう。それを考えることが、ひいては自分たちの業務における安全にもつながるのだと学ぶことができました。また私は、つい専門用語などの難しい言葉を使ってしまう癖があったので、意識してわかりやすい表現を使うよう心掛けるようにしています」(高橋さん)
従業員たちのこうした意見を聞きながら、佐藤さんは「人がもっとも成長できるのは、人になにかを教えるとき」だと話します。この活動は子供たちへの体験提供であるばかりか、同時に自社の社員教育も兼ね備えているというのです。
従業員たちのこうした意見を聞きながら、佐藤さんは「人がもっとも成長できるのは、人になにかを教えるとき」だと話します。この活動は子供たちへの体験提供であるばかりか、同時に自社の社員教育も兼ね備えているというのです。
子供たちの要望を受けて、体験プログラムの拡充を構想中
今後の体験プログラムについての抱負もお伺いしました。
「子供向けの取組に関しては、来ていただいた方からのフィードバックが大事だと考えています。今のところ満足していただけたという意見がほとんどなので、ほっと胸をなでおろしています。業務へのフィードバックとしても、改めて安全面が大事だという意識を持つことができたのはプラスだったと感じました。
今後については、今日来てくれたもとひろくんのように、リピーターで来ていただく子供たちからは次はもっと難しいモノが作りたいという声もあるので、例えばある程度の期間の中で何回か参加してもらって、一つの作品を作り上げていくような中級者向けのプログラム、あるいは時期を設定することで、学校の自由研究みたいなものとマッチングさせていくことを考えています。また、我々が小学校などの教育機関へ出向いて技術を伝えるなど、一緒に何か作っていく可能性もあるでしょう」(佐藤常務)
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