本文へ移動

東京都

  • 子供の成長応援
  • 子供の社会参画の機会創出

掲載日:2022年3月1日

特定非営利活動法人 目黒子ども劇場

子供の創造性、主体性を育む体験を通し、大人も子供も互いに助け合う地域環境づくりを

NPO法人目黒子ども劇場は、1975年11月に設立され、今では目黒区内の子供を中心に約140名が会員となっています。年4〜5回の舞台鑑賞体験をはじめ、「見る!遊ぶ!楽しむ!」をテーマに親子や中高生が参加できる自然体験会など、中高生の会員が青年リーダーとして小学生をサポートする遊びや自然体験に取り組んでおり、様々な活動から子供の創造性、主体性を育むことをテーマに地域との絆を深めています。今回は2022年2月21日に行われた舞台鑑賞体験を訪れてきました。

人気の絵本「りんごかもしれない」を題材にした人形劇を招いて開催

目黒子ども劇場による舞台鑑賞体験は子供向けの演目を扱う劇団を招いて開催されており、今回は人形劇団プークを招き、絵本「りんごかもしれない」を題材にした人形劇が行われました。「りんごかもしれない」の作者は、現在子供たちに人気のヨシタケシンスケ氏。子供たちの期待も高まります。

飾り付けられたエントランス(左)、子供たちが描いた「自分が考えた“りんごかもしれない”」(右)

会場となった「目黒区めぐろパーシモンホール」の扉を開けると、りんごの帽子を被り、赤や暖色系のコーディネートを取り入れた運営スタッフが待ち構えています。エントランスの階段を降りると、赤をメインとした布のガーランドや折り紙で作ったりんごの形のオーナメントの飾りが目に飛び込んできます。

ガーランドの中央には、子供たちが製作した、新聞紙を小麦粉のりで固めた大きなりんごのオブジェが置いてあり、その脇では完成までのプロセスをモニターで上映しています。

りんごのオブジェ制作の様子

企画設定や演目の選択などは大人が中心となって進めますが、会場のオブジェ制作や飾り付け、「自分が考えた“りんごかもしれない”」の掲示などは「メンバー」と言われる会員の子供たちが中心となって主体的に取り組みます。

子供たちが積極的に運営スタッフとして関わることで自主性を育む

左から、かずしさん、そうやくん、ひろきさん、りなさん、子供たちのサポート担当であり、そうやくんのお母さんの立岡さん

目黒子ども劇場現理事長、青木奈都子さんの娘のりなさんは、事業を取りまとめる母親を見て育ちました。大学生となった今では、子供たちの成長をサポートする活動の重要性を感じ、将来的には自ら運営に携わっていきたいと願っています。

「私にとってはここが育ってきた場所。舞台鑑賞での運営活動やキャンプ行事などでは、過ごす時間が長く濃密な分、学校で形成される関係よりも強い絆を深められると感じています。これからはもっと積極的に関わって、SNSを活用したり、外遊びから離れている子供たちがもっと遊びやすい環境作りを行うなど、工夫していきたいです」

高校生のひろきさんは、目黒子ども劇場の取組に参加するまで子供と遊ぶ機会はあまりなかったそうで、最初は「小さな子供と接することに難しさも感じていた」と言います。それでも「同じ目線で話しかけることを心掛け」たことで、心が通うようになってきたそうです。

開演前のアナウンス

立岡さんと息子さんのそうやくんのように、親子で取組に参加するご家族も目黒子ども劇場には多いそうです

「オブジェ制作に関して、絵本で表現されている『りんご』をどういう形にしたらいいか、子供たちに意見を出してもらって、作り方、見せ方を考えてもらいました。最初はアイデアが湧かないものですが、粘り強く話し合いながら最後まで子供たち主体でやりきってくれました。実際の制作では、乾くまでこんなに時間がかかるのかという発見や、折り紙のオーナメントも自然に閉じてしまわないように安定して開くにはどうしたらいいのか、子供たちで考え、実際にチャレンジしてみるいい体験になったと思っています」(立岡さん)

そうやくんも、手書きで作成したポスターを掲げ、公演中の注意事項をゆっくり丁寧に来場してくれた子供たちに伝えていました。

いよいよ開演!子供たちが目を輝かす独創的なストーリー

「りんごかもしれない」上演中の1シーン

人形劇「りんごかもしれない」は、ひとつのリンゴを前にした男の子の「かもしれない」という妄想が次々とあふれ出す物語。妄想に合わせ、りんごが様々な形に変化したり、変わった声を出したり、りんごの宇宙人となってダンスを繰り広げたり…。次から次へと繰り出されるユーモアあふれる展開に、子供たちは笑い声や驚きの声を上げながら鑑賞していました。

来場した子供たちは創造的な演目に大満足

お母さんと3人で来場していた溝田ユアンくんとカレンちゃん兄妹

「表現の仕方がいろいろあって面白かった」(ユアンくん)
「りんごが急に大きくなってびっくりした。音楽も楽しかった」(カレンちゃん)

2人とも目黒子ども劇場の様々なイベントに参加している常連さんです。

「初めは目黒子ども劇場と聞いて劇を見るだけかと思っていたら、キャンプや体験などもあって、体験参加をしてすぐに入会しました」(お母様)

こちらもお母さんと3人で来場していた椎原たいせいくんときこちゃん兄妹

育児が始まるタイミングで地方から移り住んできたという椎原さんご家族。

「もともとこの絵本が大好きで楽しみだった。絵本には出てこない宇宙人が出てきて変だったけど面白かった」(たいせいくん)
「きのこがクネクネと変な動きをしてたけど可愛かった」(きこちゃん)
兄弟ともに観劇を楽しんだ様子です。

「移り住んだ当初は知り合いもいない中で、子育てが不安でした。そんな時にこちらの活動を知って参加するように。いつも温かく接していただけるので安らげるとともに、子育てにより前向きになりました」(お母様)
目黒子ども劇場での活動が育児だけでなく生活の拠り所になっているそうです。

「大事にしているのは実現に向けて子供たちと共に考えて、作り上げていくこと」

目黒子ども劇場理事長、青木奈都子さん

1976年にお母様と共に入会し、今は前述した娘さんも活動に参加され、三世代に渡って目黒子ども劇場の運営に携わってきた青木奈都子さん。観劇体験をはじめとした各種活動についてお話しいただきました。

「こういった取組を実施している一番の理由は“主体的な実践活動”を子供たちに身につけてほしいという想いからです。観劇体験であれば、子供はお芝居を通して語られるお話の中で、自分が登場人物となって感情移入するものです。そして、隣に座っている友達や親と感情を共有することで更に感化され、新たな気づきが芽生えたり、視野が広がっていくと考えています。加えて、こういった繋がりの中で様々な大人と関わって、信頼関係が生まれることで、子供はどんどん自ら行動していくようになります。
そのためにはやはり学校周辺の人間関係だけではなく、地域の様々なコミュニティ、様々な世代を繋いでいくことが大事だと感じています」

育児世代が地域で孤立しないよう、LINEアプリを使った会員募集のチラシ

子供たちが主体的に各活動に参加し貢献するようになるために、どのような事を重視し、工夫しているのでしょうか。そのあたりを伺ってみました。

「子供たちが何を考えているか、今何に興味を持っているのかを継続的な関わりの中から根気強く見つけていくしかないと思います。そしてその子供たちの想いを活かした魅力的な企画につなげていく。大事にしているのは実現に向けて子供たちと共に考えて、作り上げていくこと。子供と大人が同じ立場で互いに認め合いながらひとつひとつ物事を進めていくことが重要なのだと思います。例えば何かを決めるときに必ず子供と一緒に考えて、大人はヒントを出してあげるだけで答えは子供たちに探させる。それが工夫といえば工夫ですね」

活動の一つである『秋まつり』では、ゲーム内容は全て子供たちで企画し、チラシなども子供たちが主体となって作っているそうです。活動の細かいところにも子供の意見がダイレクトに反映されています。では子供の意見や感想が取組の改善に繋がることもあるのでしょうか。

「特に気にかけている部分でいえば対象年齢が適切であったか、ということですね。活動によってある程度対象年齢を想定するのですが、内容、時間、そして達成感といった観点で子供たちの行動や感想を見直すことで次に活かしております。コロナ禍以前は、イベント終了後に子供たちにアンケートを取るなどしてその結果を次の開催時に活かしていましたね」

観劇終了後、ロビーにて子供たちにアンケートを書いてもらっている様子(コロナ禍以前に撮影)

「子供たちの成長には、文化体験が必要不可欠だと思っています。文化体験を通じて様々な人と交流することで、信頼関係を築くこと、またなんでもトライしてみる積極性や発想力、想像性の向上にも繋がると思います」

「大切な育児の時期に、引っ越しなどで生活環境が変わり、孤立している親もいます。そのような方々に参加していただくためにも、私たちの活動を知っていただくことが重要だとも考えています。
こどもスマイルムーブメントに参加することで、更にこのような想いの大人を一人でも多く増やしていけたらと思います」

メンバーである子供たちにとって、そして親世代にとっても、目黒子ども劇場は“世代が交差する、子供の成長を後押しする場所”として存在しています。主体性や想像力を育むための取組を実施する際に参考となる取組の一つです。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

紹介した企業・団体