掲載日:2024年2月13日
株式会社ノバレーゼ
育業に対する心理的ハードルを下げたのは、有休100%取得義務化と、
チームプレーが重要なブライダル業界だからこその仲間を思いやる気持ち
2023年6月に上場を果たし、ブライダル業界で存在感を示す株式会社ノバレーゼ。サービス業であるブライダル業界は、かつてはハードワークのイメージがあり子育てとの両立が難しいと考えられがちでしたが、同社は働きやすい環境づくりをし、女性社員の出産後の復職率はほぼ100%。そんな同社が男性育業を推進し、浸透させてきた背景を総務人事部長の小高直美さんに伺いました。
社員のプライベート充実が感動を生むサービスを作り出す。企業理念に基づき育業を推進
―御社の事業の特徴から、人を大切にしていくという思いが伝わってきます。そのような御社において、男性の育業を支援していくことになった背景や、根底にあるお考えを教えてください。
総務人事部長 小高直美さん(以下、「小高」): 弊社のようなブライダル事業は、まさに人が命です。会社は人と環境が全てであり、人こそ財産だと考えています。もともと弊社は企業理念を「Rock your life(ロック ユア ライフ) 世の中に元気を与え続ける会社でありたい」と掲げています。出会った全ての人の心を揺さぶり感動を呼ぶことで、その人の人生を豊かにしていきたいという思いがあります。弊社のサービスを通じてそれを実現するためには、サービスを提供するスタッフ、つまり人が不可欠です。そして、スタッフ自身が公私共に充実して幸せであるからこそ、感動を生むサービスを提供し、お客様を幸せにできるのではないでしょうか。そこで弊社では、有休100%取得を義務化し、積極的な休暇の取得を勧めています。休暇で様々な経験をすることもまた、非常に重要なことだと思っているからです。
こうした取組を進める中、女性社員は育業を行い復帰後も活躍しておりますが、育業する男性社員が少ないことが課題として見えてきました。やはり子育ても仕事も性別による役割と捉えるのではなく、男性も育児に参画する、社会も一緒に子育てをする、そういったことが必要だと考え、男性の育業を積極的に応援するための取組を開始しました。その後間もなく、東京都による男性育業推進の取組や、国による「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度なども始まりました。
―実際のところ、今の育業取得率などはどのような状況でしょうか。
小高: 女性に関しては、育業取得率は100%で、かつ育業をした人のほぼ全員が復帰しています。男性の育業取得率は年ごとにばらつきがあるのですが、ここ数年は20〜30%で推移しています。2022年は30%、昨年は17%というところでしょうか。取得率自体には大きな変化がないように見えますが、育業をしている期間を見ると大きく変わってきています。以前は1〜2日の短期的な育業が多かったのですが、近年は長期で育業をする人が増えてきており、今では1〜2ヶ月や半年ほど育業することも珍しくなくなりました。
―男性社員はどのような理由で育業しているのでしょうか。
小高: やはり一番多いのは、パートナーが一番大変な時期にそばにいてサポートしたいというケースです。また、お子さんは急激に成長していきますので、貴重なその時期を一緒に過ごしたいという声もあります。
社内報を活用し、トップメッセージや男性育業事例の紹介を継続的に行ってきたことで理解浸透
―男性育業を推進するためにどのような取組から始めたのでしょうか。
小高: まず最初に、社長からメッセージを出してもらいました。社内報を使って「男性もどんどん育業して欲しい」と。やはり社長が育業に非常に前向きであることが男性育業推進に大きく影響していると思います。このほかに、「ファミリーウィーク」と称して「1週間でもいいから育業してみませんか?」というプロモーションをしました。その際には、女性には産後どんなことがあって、男性はどんなタイミングで育業するのがいいのかなどの情報を一緒に発信しました。
また、実際に男性で育業した方の事例を社内報で掲載することなどを続けていきまして、次第に男性も育業するという考えが浸透してきたと感じています。
―社長からメッセージを発信されたとのことですが、管理職の育業に対する意識はいかがでしょうか。
小高: 育業に対する理解が進んでいると感じます。というのも、有休100%取得を義務化してプライベートの充実を推奨している影響で、管理職も働き方に対する意識がとても強くなっています。そのため、男性社員からパートナーの妊娠報告があると、管理職から「いつから育業する?どんな働き方にする?」ということを積極的に確認して、育業しやすい雰囲気を作ってくれています。
総務人事の担当者のところにも管理職から「育業させてあげたいのだけど、どうしたらいい?」という相談があるなど、非常に理解が浸透してきている状況と言えます。
このような理解を促進するための取組として、管理職向けに「産休・育休サポートブック」というものを作って、妊娠・出産する社員への関わり方や社員の働き方を紹介し、管理職が理解を持って当事者スタッフと関われるようにしていきました。
また、管理職の理解という面では、有休100%取得義務化の効果として、スタッフが不在になることに対する抵抗が少なくなったことが挙げられます。育業の際に人の手配が課題になるとよく聞きますが、弊社では不在時のサポート体制も整えており、不安感は軽減されています。有休取得の推進により育業しやすい環境にもなったということだと思います。
―では、育業の対象である男性社員の皆さんの意識はいかがでしょうか。
小高: 相談窓口を設置しており、対象となる社員からの相談は増えてきています。例えば、育業したいけれどどうしたらいいか、育業中の給付金や社会保険料はどうなるのか、といった相談があります。育業したいけれど収入が気になるというケースもあります。
また、育児・介護休業法の改正により育業しやすくはなってきたのですが、それは一方で新しい制度が始まったということ。そのため、変更点を複雑に感じることもあるようで、どんな育業の仕方があるのかと聞かれることがあります。総じて、育業の対象となる男性スタッフの意識は高まっていると感じます。最近では新しい制度も知られてきて、実施時期を分割して育業する社員も出てきました。
フレキシブルな勤務や子育て社員に対する支援を手厚くし、育業後も働き続けられる環境を整備
―御社のホームページ(https://www.novarese.co.jp/sustainability/colleagues/diversity/)を拝見しますと、御社には子育て支援施策が多数あるとお見受けしますが、それらについて教えてください。
小高: いずれも男女を問わず活用できる制度となっております。育業することが可能な期間をお子さんが3歳になるまで延長しているほか、妊娠出産から子育て期間中に活用できるポータルサイト「Succu!!(スック)」を開設しております。育業中は社内との接点が少なくなりますので、直近の社内の情報をキャッチアップしたり、必要な申請手続きをしたりする時に利用されています。経済的支援については、ベビーシッターの利用料金の一部を補助することも、状況に応じて行なっています。
特によく利用されているのは育児時短制度で、お子様が小学校を卒業するまで利用可能です。加えて、「フレックスキャリア制度」という会社独自の勤務制度を設け、正社員雇用のまま、ライフステージに合わせて勤務時間や就業日数を変えられるようにしています。月単位で変更できるので、試しにこのパターンで働いてみようとやってみたけど、翌月から別のパターンに切り替えるということもできます。ご家庭によって子育ての支援体制も違いますので、フレキシブルに活用してもらっています。
どうしてもお客様とのアポイントの時間が土日や夕方以降になるケースも多いので、働き続けてもらうためにはどうしたら良いかを常に考えています。
サポートする側もされる側も気持ちを通わせる機会を設けることで助け合う風土を醸成
―育業期間が長期になり、また復帰後もフレキシブルに働く方がいる一方で、周囲の社員との連携はどのようにしているのでしょうか。
小高: 時短勤務者の多い現場では、時としてフルタイムのメンバーに負担がかかることもありえます。
しかし弊社の場合、社員同士が互いに支え合う、高め合う、助け合うというマインドがもともとベースにあるので、一時的に困惑を感じてしまうスタッフもいないわけではないのですが、相互に尊重しあう関係性ができています。
何より社員一人ひとり、いつ誰にどんなことが起こるかわからないので、今フルタイムで働いていても、何かのきっかけで勤務時間を少なくしなければならないことがあるかもしれません。やはりそこはお互い様で、自分に何かあった時に次はサポートしてもらう側になるのだからと話しています。
一方、時短勤務をしているスタッフも、子育て中だから時短が当たり前というのではなく、自分が不在の時に対応してくれる周囲のスタッフにいつも感謝をしているといったことや、お客様からの問い合わせが少なくなるように仕事の仕方の工夫をしているなどという話をよく耳にします。
弊社の業務は一人でできる仕事ではなく、チームプレーで進める仕事が中心となります。そのため、チームメンバーを大切にし、他のメンバーのために何ができるのかを考え、積極的に協力するという意識が強い社員が多く、互いに助け合い支え合い、感謝するということにつながっているのだと思います。
―育業する時も、復帰後も、子育て中は肩身の狭い思いをしてしまうことが男女関わらずあると思います。そうした場合はどのような対応をされるのでしょうか。
小高: 子育て中の社員が普段どのように働いているのかを社内報で紹介しています。具体的には、仕事と育業・家庭を両立するためにどのように時間を使って日々過ごしているのかなどです。この取組によって、同じように子供を持つパパママ社員には、大変なのは自分だけじゃないんだという勇気づけができます。他方、サポートする側の社員には、子育てしながら働く社員の現状や努力への理解を助けて、サポートする気持ちを強めることにつながります。
何よりサポートされる側にとっては、日々サポートされることが多い環境での葛藤や、サポートしてくれる社員に日頃の感謝をどうにかして伝えたいという気持ちなどを伝える場ともなっています。
育業中の社員とその周囲の社員が、お互いの気持ちを分かり合えるように心がけています。
―御社の場合、お客様とのアポイントやブライダル本番の予定もあると思います。どのようにしてやりくりされているのでしょうか。
小高: 弊社では有休取得の義務化もあって、業務のシステム化を進め、業務上必要な情報をチームメンバー間で共有できるようになっています。特定の社員が不在であっても、その社員が担当するお客様の情報を他の社員が把握できるようにして、誰でも対応できる体制を整え、お客様に迷惑がかからないようにしています。同時に担当社員も気兼ねなく安心して休暇を取れるようにしています。有休を取りやすくするという観点から始めたことでした。
育業の場合も、前もって早い段階から計画できることから、こうした体制をうまく活かして育業しやすい環境になっていると思います。
育業の期間についても育業する当事者が上司と一緒に色々考え、人員が足りない場合は、店舗の垣根を超えて近隣店舗同士でサポートし合うなど、気兼ねなく育業できるようにいろいろ考えて対応しています。
―御社が男性育業を推進する中での課題や、推進してきた中で新たに見えてきた次のステップなどはありますか。
小高: これまでの取組は、トップを中心に育業をどんどん推進し、会社としても、業務面のサポート体制を整え、ひとまず環境が整っていると思います。
他方で、男性女性双方の社員の意識が今後も重要になってくると思います。男性の育業が浸透してきましたし、上司から育業を勧める言動はありますが、当の上司に当たる方々も育業の経験者だとより浸透しやすいです。今育業している社員が上司の立場になって部下に育業を勧めるという好循環が一層進むと、今とはさらに違う光景が広がるのだと思います。
会社と社員の信頼関係をベースに本質的な育業浸透が可能に
-最後にこれから育業の推進を検討している企業・団体様にメッセージをお願いいたします。
小高: 法律で定められたから、あるいは社会の風潮が変わってきたからということで形だけ作っても、なかなか本質的なところが浸透しないのではないでしょうか。そもそも社員を信頼し任せていくベースがあるからこそ、制度が生きてくると思います。ですので、まずは社員と会社との信頼関係を作っていくことが大事だと思います。
それがあれば会社としてトップの考え方がすぐに社員に伝わり、育業のような推進したい制度が浸透していくし、本来あるべき姿で利用されていくのだと思います。まずは会社としての姿勢の軸となるところを作って発信していくことが重要なのだと実感しているところです。ぜひ、社会を作っていく会社として、ともに男性育業を推進し、男女を問わずに家庭や育児に関わる社会にしていけたらと思います。
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