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東京都

  • 育業促進

掲載日:2023年3月29日

株式会社ローソン

男性の育業率96%に達した制度普及への工夫とは

株式会社ローソンは、ダイバーシティという言葉が一般化する以前から、女性の活躍やグローバル人材の積極的採用などに取り組んできました。そして、2018年度から男性社員の育業率が90%を超えるなど、男性の働き方に関する制度の整備も先進的です。同社の育業制度やその普及の秘訣などを、実際の育業経験者の声とともに紹介します。

人事本部人事企画部の柳田衣里さん(左)、劉 超さん(右)と、東京中央支店支店長であり育業も経験した山神健吾さん(中央)

ユニークな育業制度普及の取組 ~「短期間育児休職制度」で取りやすさを重視、育業体験の共有でみんなで育てる意識を~

―2014年に「短期間育児休職制度」を新設し、以来、男性育業の促進をしていらっしゃいますが、どういった経緯から制度の新設を検討されるようになったのでしょうか。

人事本部 人事企画部長 柳田衣里さん(以下、柳田):ダイバーシティを推進する中で、当然、育業の促進も重視してきました。世間の動きと比較しても早くから動いていた印象があります。コンビニはもともと若い男性向けのお店として成長してきましたが、今や社会環境が変わりました。例えばナチュラルローソンにチャレンジするなど、女性客も意識したお店づくりや、少子高齢化でシニアのお客様も増えています。お客様の多様化とともに、社内環境も変わっていく必要がありました。 お客様に対して満足いただける商品やサービスを提供するためには、組織から変わっていく必要があるのではないかと、当時の社長の強い意思によってダイバーシティの取組がスタートしました。まだダイバーシティという言葉が一般的ではない2005年、まず着手したのが新卒採用の男女比均等化です。そして、女性社員の比率が少しずつ上がってきた7年後の2012年、女性社員向けの研修がスタートしました。30代手前でワークライフバランスについて悩む方に向けてはキャリア開発研修、そして、管理職になる一歩手前社員を選抜して、リーダーシップ研修をそれぞれ年1回、今でも開催しています。 社員に占める女性比率が増えるにつれて、女性の働きやすさを考慮した環境が少しずつ整備されてきました。しかし、育児と仕事との両立は女性のみでなく男性の協力も必要です。ですから、男性向けの取組も力を入れなければならないと、2014年から男性向けの育業制度を導入するに至りました。

―14年から導入された男性向けの育業制度とはどういった制度でしょうか。

柳田:短期間の育業として、上限5日の特別有給休暇を設けました。取りやすさを意識して、1日から取得できる短期制度にしています。やはり、長期の休業はキャリアや収入に少なからず悪影響があるのではないかと考える人もいます。あくまで特別有給休暇として、自身の都合や希望に合わせて取得できるようにしました。

―2016年にはその短期間育業の取得率が80%と高水準になっています。何か特別なきっかけがあったのでしょうか。

柳田:この制度に限らず、制度を知ってもらうことが大事です。そのために、社内向けの啓発ポスターをつくりました。ポスターにあしらうキャッチコピーは社員から募集しました。 当初は、描かれている子供のキャラクターがどんどん成長していくシリーズもののポスター展開をしたり、ただ掲出するだけで見過ごされてしまわないよう、話題化につながる工夫もしました。

社内に貼られている、社員からの公募で選ばれたキャッチコピー入りの育業啓発ポスター

―社員を巻き込みながら広報する取組は有効ですね。広報していく上で、他にはどのような取組をしているのでしょうか。

柳田:実際に育業した社員から子供の写真や感想を提供してもらって、オンラインの社内報で「こんにちは赤ちゃん」というタイトルの記事を定期的に公開しています。「こんにちは赤ちゃん」では、男性の育業体験談をメインに紹介しています。

「こんにちは赤ちゃん」の記事ページ。男性社員の育業体験談を写真と共に紹介しています

東京営業部 東京中央支店長 山神健吾さん(以下、山神):「こんにちは赤ちゃん」で特にいいなと思うのは、記事のトップにまず社員の赤ちゃんの写真がばーんとレイアウトされている点です。仕事中は、どうしてもストレスやプレッシャーを感じる時があります。でも、パソコンの画面いっぱいに赤ちゃんが映し出されると癒されますし、モチベーションアップにもつながります。 「こんにちは赤ちゃん」では、一度に4~5名の体験談が掲載されます。「初めての子供、初めての写真です」とか「もう〇人目の子供、また1人増えました。」とか、同じ会社で働く男性が綴った言葉を読んでいると、何かすごく伝わってくるものがあります。 私も、かつてはポスターを見て「子供ができたら育業しないとな」程度に考えていた身ですが、「こんにちは赤ちゃん」などで体験談も含めて知っていくと、育児が身近に感じられるようになりました。

柳田:ほかにも、育業した社員のいる部署や支店に、人事から菓子折りを贈っています。ただのお菓子ではなく、例えば子供の名前入りおせんべいを贈るんです。

山神:おもしろいですよね。仕事の合間や昼食後に職場のみんなでいただくのですが、名前入りなので、「ああ、こういう名前なんだ」と話題になる。些細なことですが、ほっこりする瞬間です。「こんにちは赤ちゃん」の写真も同じですが、子供の顔や名前を知ることで、社員みんなの子供、社員みんなで育てるという意識につながるのではないでしょうか。

育業した社員の子供の名前入りのお菓子が、当事者が所属する職場に贈られる

21年度は男性の育業率96%に、長期間の育業も増加

―広報活動の成果で、2018年に男性の育業率が90%に達したそうですが、最新の育業率はいかがでしょうか。

人事本部 人事企画部 劉 超さん(以下、劉):2021年度末で公表している数字だと96%に上りました。 取得日数においても高水準で、短期間育業の取得日数は21年度末で平均4.8日、2月に事業年度末を迎える22年度は平均4.7日となる見込みです。5日上限の短期間育業制度が最大限活用されています。 2022年度に施行された出産時育児休業(産後パパ育休)を導入した10月1日から現時点で、既に35名の取得希望者がいます。14日間を取得日数の目標に設定していますが、平均は18.7日で、上限の28日取得を希望する社員もいます。 また、3か月~半年の休職という形で、長期に育業する男性社員も、毎年1~2名程度います。

―子供が生まれてから育業するまでの流れを教えてください。

劉:事前に計画して取得したい方は上長報告後、人事に申請手続きを進めます。一方、フォローアップとして、子供が産まれたら社内のシステムに情報を登録してもらっています。1か月程度が経過しても本人から育業の希望が出ていない場合、人事部から当事者の上長に業務調整などの依頼とともに、短期間育児休職の取得を後押ししてあげてくださいとお願いのメールを送ります。 出生時育児休業(産後パパ育休)が2022年10月から始まるのをきっかけに、自発的に育業したいと希望する社員が増えています。

山神:社内の男性向け制度が導入されはじめた頃は、人事部からの依頼を受けて部下に育業を促すことがほとんどでした。しかし、今はもう子供が生まれることが分かったら、すぐに育業するのか、もしくは少し間をおいてから育業するのか、部下と一緒に計画を立てることが常になりました。 ローソンのコンビニエンスストア事業は24時間365日体制の業態です。育児と仕事の両立にあたっては、周囲のサポートが不可欠です。育児に限りませんが、プライベートの事情などがある際は、当事者をみんなでバックアップしていこうという意識が根付いています。

育児と両立するパパママが増えるメリットは? ~時間が限られるがゆえに業務が効率化~

―そもそも女性の活躍を推進されているため、例えば育児と仕事を両立しているワーキングマザー率も高いと推察します。取得率が伸びている育業を経験した男性社員と合わせて、職場にパパママ層がいることで期待できるメリットなどはありますか。

柳田:当社のワーキングマザー率は約25%となっており、育児と仕事を両立している社員は、保育園のお迎えなど、時間に制限があります。育児の時間を確保するために仕事を効率的にしようとする子育て中の社員がいることは、周辺の社員へも良い影響を及ぼしていると思います。また、両立している社員が増えてきているので、当時者も堂々と「子供のお迎えがあるので今日は失礼します」と言える雰囲気ができていると感じます。

劉:育児経験が与える業務への好影響についても、ある支店長が言及していました。時間が限られているがゆえに、業務効率がすごく高くなるそうで、周囲の社員もその姿を見て相乗効果が生まれているそうです。他にも、コンビニエンスストアの利用が多い共働きの層の需要がわかるので、スーパーバイザーとして加盟店の経営指導をする際に役立つことも多いと思います。

週3、週4勤務や短時間勤務も選択可能 ~担当店舗数を減らして勤務時間を調整、支え合うことで育業を応援する風土~

―時短や勤務日数減少の制度についても教えてください。

劉:時短制度は、育業からの復職後の利用を意図しています。7時間45分が所定勤務時間ですが、それより短く働いても遅刻早退として計上せず、時短として計上する制度です。 勤務日数減少は、基本週5勤務ですが、本人希望により、週4、もしくは週3を基本とすることもできます。子供が小さなときは働く時間を短くしていきたいという希望に合わせて、選べる制度です。必ずではなくて「選べる」というコンセプトです。

山神:私の部下にも、時短制度の活用者が1名います。ローソンの店舗指導員は1人につき8~9店舗の経営指導を担当するのが基本です。週に1~2回お店にお伺いして、オーナーさんと2~3時間程度、お店の改善点などのお話しをします。時短制度を利用する指導員は、担当店舗数を減らすことで、勤務時間を調整します。私の部下は、6店舗の担当に減らしています。 ただ、それだけでは深夜や休日の営業に対応しきれない面もあります。そこで、他のメンバーでフォローをしています。例えば、時短の当事者が退勤した夕方以降、不測の事態が発生したら、事前に決めていたフォロー担当者に私から対応依頼を出します。翌日、フォローした者から担当者に引き継ぎを行います。 先ほど申し上げたように、普段からメンバー同士で支え合っていることもありますし、会社の研修などもあるので、育児などを応援する風土が醸成できていると思います。

「育業の考え方は、ローソンのグループ理念にも通じるものがある」と山神さん。「みんな」には、ローソンのお客様、社員、その家族などあらゆるステークホルダーが含まれているそうです

支店長 山神さんの育業体験 ~自分が率先しなければ。育児の大変さを痛感~

―山神さんの育業体験について教えてください。

山神:2020年の1月に。初めて短期の育業をしました。啓発ポスターなどで制度は知っていましたが、支店長という役職もあり、自分が育業するのは難しいのではないかと思っていました。そんな中、部長から「取得してね」と声を掛けていただいたのが、後押しになりました。 育業しやすい雰囲気づくりには、支店長である自分が率先して行わなければならないと考えてもいたため、産後少し期間をあけて5日間の育業をしました。妻も若干の育児疲れが見られる時期で、育児の大変さを痛感しました。育業をしてみて、妻の想いと、何もできない自分の無力さを知りました。でも、その無力さを痛感できたことや妻と大変な時期を共有できたことが、とても大切な経験でした。子供はもう3歳になりましたが、その経験が今にいたるまで私の育児に活かされています。

―5日の期間中、山神さんはどのような育業をされたのでしょうか。

山神:育業以前から、自治体開催のパパママ向け研修などに参加していて知識はある程度あるつもりでした。しかし、実際にやってみると、まったくできない。なので、5日間は妻に教えられながら、座学の実践をしていた感覚です。育業後、例えば妻が息抜きで遊びにいく時に、自信をもって子供と過ごすことができるなど、育業で経験したことがその後の育児の基礎となっています。

―職場に戻られて、そこから仕事と子育ての両立が始まると思うのですが、どのようにやり繰りされていますか?

山神:先述のように、育業を通じて育児の本当の大変さが分かりました。例えば先回りで考えて家庭のことをやるようになったり、妻への一言一言に配慮をしたり。当然ですが、自分の育児ですから。

―育業後、復職にあたって準備したことはありますか。

山神:実は、育業や復職にあたって、特段準備をすることはありませんでした。というのも、当社では、夏と冬には、7日~10日間程度の休暇を全社員が取得する制度があり、普段から代替のサポートなどが習慣化できているのです。

―チームメンバーの業務や休日の管理はどのようにされているのでしょうか。

山神:私の支店では、オンライン上で全メンバーのスケジュールを共有しています。その際、休暇取得期間のほか、代替担当者や業務内容、申し送り事項も明記するようにしています。全メンバーが見られるようになっているので、不測の事態にもスムーズかつスマートに対応できています。 このスケジュールと業務の共有がチーム全体で習慣化されているので、大きな調整なく短期の育業ができました。

―組織のリーダーとして育業をしてみて、率直な感想をお聞かせください。

山神:現場のリーダーである私が育業をして、その体験を発信することが一番大事だと思っています。部下から育児に関して報告や相談される際に、本人と具体的な計画をよく話して、チーム全体で共有していくこと。そしてそういった話をしっかりする上での大前提として、普段からのコミュニケーションがとれていることも重要です。 実際に育業してみて、毎日の働きやすさの延長上に、育児と仕事との両立があるのだという実感があります。

ローソンでは、ダイバーシティの実現の観点から男性の育業推進など、育児と仕事の両立促進に取り組んでおり、社員を巻き込む工夫によって啓発活動に力を入れています。

記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。

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