掲載日:2022年3月1日
株式会社守半海苔店
地域に根ざした企業だからできる「どんなことしたいですか?」を実現
海苔養殖発祥の地、大森にて1901年より海苔店を営む守半海苔店は、2019年から地域の子供たちに向けて、同店が取り組んでいる“こどもプロジェクト”の一環として「海苔体験教室」を開催。そこには地域密着だからこそ“直接的に意見交換ができること”を活かした取組の実践と改良がありました。
工場での参加型体験プログラムで“ものづくり”を学ぶ子供たち
2019年に始まった海苔体験教室は、2020年からよみうりカルチャー大森のセミナーの一つとして共同運営され、よみうりカルチャー大森が参加者募集と開催場所の提供を、体験教室のコンテンツ開発は守半海苔店がそれぞれ行っています。
2022年3月5日に行われた海苔体験教室を取材してきました。まずは工場長から海苔を知るための講義が行われ、次に、焼き海苔作りで一番大切な行程“焼き”を体験してもらいます。この「焼き海苔づくり体験」は体験教室の中でも一番人気の工程です。
実際に海苔を焼くことで、海苔づくりの工程を理解していきます
まずは焼きを入れる前に、乾燥させただけの海苔を触って色や香りを確認します。その次は焼きの工程となり、長いベルトコンベアとオーブンを組み合わせた専用の機械に入れると、あっという間に反対側から焼かれた海苔が出てきます。
一瞬の出来事だったので「もう一回やりたい!」と繰り返し試していると、ちょっとした発見がありました。
「焼くと色が変わったね」
「ほんとだ!焼く前はちょっと赤くて黒いけど、焼いた後は綺麗な緑色だ。匂いもいつもの海苔と同じになった!」
と、蛍光灯に透かしてみながら色の違いを発見しました。
焼く前の海苔は赤黒い色なのですが、この焼き機で焼くとおいしそうな緑色に変わります。この色が香ばしい味と香りの秘密なのですが、この焼く行程にはどのような意味があって、どのような違いが生まれるのか、子供たちは学ぶことができます。
また、佐賀、福岡、熊本と産地の違う海苔を観察して食べ比べてみて、産地が違うと見た目や味が変わることも教えてもらいました。全部一緒に見えるけど、そうではないこともわかります。
機械のスピードに合わせての缶詰め作業で職人さんのすごさを実感
次はカットした海苔を缶に詰める作業を体験します。焼きを入れた海苔を重ねて束にしたものを専用の機械に通すと、すぐさま全型(タテ21cm×ヨコ19cm基本サイズ)の海苔が9つにカットされて出てきます。その海苔をベルトコンベアのスピードに合わせて引き寄せ、自分の手元で整えるというスピードとタイミングが要求される作業に取り組みます。
従業員の方にしっかりやり方を教えてもらいチャレンジ。難しそうなので、ちょっと緊張している子供もいましたが、今回が3度目の参加というはるきくんは、やったことあるもん、としっかりこなしてご満悦でした。「ドキドキしてちょっと難しかった。働いている人すごいね」と子供にはハードルが高い作業でしたが、職人さんの技術を垣間見ることができた体験でした。
海苔作り体験の最後は自分で選んだ缶に海苔を詰め、そこにオリジナルラベルを自分で描いて貼り付けるパッケージング体験です。思い思いの缶を選び、思い思いの絵を描いて完成です。
子供の要望から生まれたプログラムも実施
海苔作り体験のほか、海苔クイズと守半海苔店の仕入れ先である佐賀県有明海の海苔養殖者とのオンラインLIVE中継も実施しています。元々は海苔作り体験と歴史の講義だけだったそうですが、聞いているだけではなく、もっと参加したい、という子供や保護者からの要望によって生まれたとのことです。特にLIVE中継は海苔漁師さんと直にやりとりできるとあって好評を博しているそうです。
参加した子供たちはみんな海苔が大好きに
参加された2組の親子にお話を伺いました。
今回で3回目の参加というはるきくん。海苔が好きになり、今では守半海苔店の海苔しか食べない!というこだわりをみせるほどです。
「缶に詰める作業が一番好き。綺麗に詰められると嬉しい。それと海苔のことも勉強できて3つ等級があることも覚えました」(はるきくん)
「元々は人見知りだったのに、興味を持っていることならちゃんと大人とコミュニケーションを取れることは発見でした。さらに2回目の参加ではお友達を誘ったのですが、お友達に自分から色々教えてあげていて、こういう一面もあるのだ、と驚きました」(お母様)
はるきくんは次回もまた参加したいそうで、「次は大好きな海苔茶漬けを作りたい!」と従業員の方にリクエストを出していました。
前述のはるきくんのお友達で、今回初めて参加したあやねちゃんと弟のけんとくんは、
「海苔は作っている場所が違うと見た目も味も変わるのを知れてびっくりした」(あやねちゃん)
「焼くと海苔の色が変わるのが面白かった」(けんとくん)
と、様々な気づきや学びがあったようです。一方お母様とお父様は、
「外ではお姉ちゃんが弟の面倒をよく見てくれていたのが新鮮で印象的でした」(お母様)
「お海苔への興味が膨らんだようで、今後にもつながるいいきっかけでしたね」(お父様)
「聞いてもらう、だけではなく食べて体験してもらうことが大事だと知りました。百聞は一見にしかずですね」
工場体験をレクチャーしてくれる従業員の方々にもお話を伺いました。
「この取組をする前に、従業員の子供でトライアルを行ない、そこでどのようなところが面白かったか、興味が湧いたかを聞いてプログラムを作成しました」(山野さん)
「それでも座学の部分では難しい話をしてしまっていたようなので、その辺りも徐々に改良していきました。百聞は一見にしかず、といいますが、やはり体験してもらい、食べてもらうのが一番いいのかなと思います」(佐藤さん)
子供の反応で発見や学びのようなものはあったのでしょうか。
「大人だとこれが一番高級ですよ、といえばそれが美味しいという印象になりますが、子供は関係なく、例えリーズナブルな等級でも美味しければ素直に美味しいと言ってくれるのは発見でしたね」(山野さん)
「子供だから変な先入観がないせいか、今回3種類用意した海苔も3人が3人とも違う種類が好きと言っていたのが印象的でした」(佐藤さん)
取組を進めていくなかでの生まれた工夫もあったようですね。
「缶を詰める作業台が小学校低学年ぐらいの子供にはちょっと高いんですね。だからその年頃の子供さんが参加しているときには台を用意したり、教えてあげるときには背を屈めたりしゃがんだりして目線を合わせてあげるのを心がけるようになりました」(山野さん)
こちらが「やってあげる」ではなく「一緒にやっていきませんか」という姿勢がより良いアイデアを生む
海苔作り体験、クイズ、LIVE中継と、全てが子供を飽きさせない参加型プログラムで構成されている守半海苔店の海苔体験教室の姿勢はどこから生まれたのでしょうか。経営企画部の的場さんにお話を伺いました。
「海苔発祥の地、大森のこの地で海苔の歴史とともに、海苔屋を営んできた私たちだからこそ子供たちに伝えられるものがあるのではないか、またそれを直接アプローチできないか、ということでこの体験教室が生まれました。工場担当の従業員も申していましたように、開催しながら様々な改良を経て今に至ります。 この地域で長年商売をしていた企業なので、お客様や参加者様と直接声を掛け合える距離感であるのが強みです。『こんなことしたい、あんなことできますか』という皆様のお声に耳を傾け、取組に反映してきました」(的場さん)
例えばどんな改良をおこなってきたのでしょうか。
「山野が申しましたように、背の小さい子供には台を用意するというのも一つです。また、絵を描いてラベルを作ってオリジナル缶をお子さんに自ら仕上げていただく工程も、保護者の方とふとした時に交わした“缶に絵を描けたりするといいですね”という会話から生まれた工夫です」(的場さん)
そういった子供の声や保護者の想いを日常的に吸い上げるという意識があり、それを体験内容に細部にまで落とし込んでいるのが人気の秘密なのでしょう。このような取組や、子供・保護者の声が業務内容にまで発展するようなこともあるのでしょうか。
「今の子供でも海苔が好きな方がこんなにいらっしゃるのは、取組を始めてみて改めて感じた部分です。しかし、同時に海苔は食べ方や使い方にバリエーションが少ないというお声も頂いていたので、小さい俵むすびなどに使いやすい短冊切りの8枚カットのものを新たに開発したという例があります。今までは全型を9枚にカットした正方形に近いサイズだけだったのですが、細長くすることで小さい子供の手でも扱いやすくして、お母さんと一緒におにぎりを作ったりできるようにしました」(的場さん)
そういったあたりも地域に根付いた企業ならではというわけですね。今後はどのような発展を考えておられるのか、伺いました。
「今実施しているのは初めて体験する方をターゲットにした初級的な内容なのですが、お陰様で今日来ていただいたはるきくんのようにリピーターも増えてきていますので、もうちょっとレベルの高い中級編のような内容も考えていければと思っています。例えば弊社の商品の一つである『海苔茶漬け』を作ってみるというのも面白いかもしれませんね」(的場さん)
また、守半海苔店が推進し、この海苔体験教室もその取組の一つである“こどもプロジェクト”の今後についても伺いました。
「こどもプロジェクトは地域の子供の未来のために何かできることはないか、という主旨で始めたプロジェクトです。体験教室運営のほか、子ども食堂への海苔の提供も行っております。いくつかの団体様と連携して、メニューの一部として海苔を使っていただいているのですが、今後、もっと海苔をアピールできる、食事のメインになるようなメニューを提案していけたら、と思っております。例えば海苔が主役の海苔丼みたいなものも開発して食べてもらえたら、と考えています」(的場さん)
地域に根ざした企業がこのような取組を進めるに際してのアドバイスがあれば、お願いします。
「私たちのような企業のアドバンテージは、こういった取組の参加者となり得る地域の人達との距離の近さです。ですからこちら側が一方的に何かやる、というのではなく、何かやってみたいことありませんか?一緒に作り上げていきましょう、と地域の人々に問いかけてみてもいいのではないでしょうか。
例えばSNSなどでいただくコメントにもヒントが隠されていると思いますし、私たちも経験しているのですが、そういった直のコミュニケーションから何かにつながることがあります。決してハードルは高くないと思いますよ」(的場さん)
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