掲載日:2023年11月8日
株式会社ペンシル
頑張らなくても育業取得率100%の秘密。
働きやすく働きがいのある環境を考え「とりあえずやってみよう」からできた制度と育業の関係。
ダイバーシティという言葉が出回る前からスタッフが望む多様な働き方を支援してきた株式会社ペンシル。同社のダイバーシティに関する取組は経済産業省より「平成29年度新ダイバーシティ経営企業100選」に選定されています。また、スタッフの子育て支援も「育業」という言葉ができる前からすでに実施していました。この取組が結果的に、昨今の育業支援の礎となっています。時代に先駆け制度を生み出し、浸透させてきた背景を、創業時からの様子を知るパフォーマンスマネイジメント部D&I推進室の百瀬由佳さんにお聞きしました。
ダイバーシティ経営に取り組んだ結果、男性スタッフから「育休取れますか?」を生み出した
―昨年は男女ともに育業取得率100%とのことですが、どのような取組をされているのでしょうか。
パフォーマンスマネイジメント部D&I推進室 百瀬由佳さん(以下、百瀬):「実は、会社として育業取得率の目標があったり、育業することを積極的に促進したりしているわけではありません。こう話すと誤解があるかもしれませんが、もちろん育業するスタッフが増えたこと、育業取得率が100%になったことは大変喜ばしいことだと考えています。弊社は、それぞれのスタッフが働きやすい環境を作るということは何年もやってきました。会社の規模が大きくなかったことも実現しやすさの理由ではあったかもしれませんが、育業したいという希望があるからだけでなく、さまざまな事情で働き方を変えたいと申し出があれば、「あなたが働けるような形で働けるように支援をします!」という姿勢でいます。2019年に初めて男性スタッフが育業をすることとなりましたが、育業の支援制度があったわけではありません。男性スタッフがパートナーから「育休取れるの?」と聞かれ、そのスタッフが上司に「育休取れますか?」と相談したのがきっかけでした。「おめでとう!どんなふうに調整する?」とそのまま育業中の業務分担など具体的な会話に発展し、弊社初の男性育業となりました。」
―当時、育業に関する制度がなかった中で、スタッフの方がこうした申し出をするにはかなり勇気が必要だったのではないでしょうか。
百瀬:「そうかもしれませんが、先ほども申し上げたように弊社はダイバーシティ経営をかかげて取り組んできました。だから、そのスタッフのパートナーも夫が育業できるだろうなと思ってくださったのだと思います。実際に男性スタッフがパパ座談会で以下のように話をしていました。」
「正直に言うと、私の場合は自発的な育休取得というより妻から「育児休暇は取れる?」とさらっと聞かれたことがきっかけになりました。ダイバーシティを推進している会社だと知っているので、育休も取れるのではと思ったようです。」
(ペンシル社ダイバーシティ経営「パパ座談会〜パパだって負けられない。育休経験者に聞く!男性育休ホントのトコロ〜」より抜粋)
―その後男性育業が広がったとのことですが、現在の育業状況はいかがでしょうか。
百瀬:「第一号の育業者に続いて、同じ部署の上席であるマネージャーが育業期間に入りました。それが会社の中ではかなり大きなインパクトになり、その後の育業希望者へと広がっていきました。最初の育業期間は1週間でしたが、次のマネージャーが1ヶ月、その後は、大体1ヶ月程度の育業期間となっています。男性が育業するタイミングは様々で、生まれた直後のこともあれば、里帰り出産からパートナーが自宅に戻ってきたタイミングや自分の業務が落ち着いた時期を見計らって、というパターンもあり、人それぞれですね。」
―現在は育業希望の方に、独自の人事資料をお作りになって面談もされていると聞いています。どのような資料なのでしょうか?
百瀬:「2種類作っています。一つは、育業するための申請や手続きを説明したガイドブックでパパママ兼用のものです。もう一つは、パパ育休(育業)推進を目的としたハンドブックを作成しております。このハンドブックでは、育業期間に関することやその間の収入のことなど基本的な制度の説明をしています。併せて育業や子育てに関わる社内の支援制度を紹介しています。こうすることで育業や子育てと仕事の両立に対する不安も解消されていると思います。資料の最後には、子どもの尊さと育業という貴重な時間を大切にしてほしいという会社からの思いを綴っています。」
数ある育業・子育て支援制度をパッケージ化し、社内育業支援制度「ペパポ」とネーミング。育業支援や安心した子育てができる環境整備を実施
―現在、貴社では「ペパポ」という育業支援の制度がありますがこちらのことでしょうか?「ペパポ」についてぜひ教えてください。
百瀬:「『ペパポ』とは、『PEncil PArenting supPOrt』の略で、性別に関わらず親になっても長く働くことができる環境づくりを目的に、子育てを応援する制度をまとめたものです。こうすることでスタッフにも子育て支援の制度をわかりやすくすることが可能になりました。すでに何度か追加されていますが、今後も要望に合わせてメニューを増やしていく予定です。社内的にも、対外的にも『ペポパ』によって、子育て支援の取組を説明しやすくなり、認知も広がっていくことを期待しています。」
―HPを拝見しても「福利厚生に関しての制度はいくつあってもいい」というワードが目に飛び込みます。具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
百瀬:「たとえば『家ペン』『短ペン』『早ペン』といった制度です。これらはオフィスではなく自宅で仕事をする在宅勤務(家ペン)、所定労働時間を短縮して勤務する時短勤務(短ペン)、始業時間や終業時間を早めて勤務する繰り上げ勤務(早ペン)です。子育てや介護中のスタッフ、また、パートナーの転勤などを理由として活用されています。ネーミングもあえて「在宅勤務制度」とするのではなくてオリジナルの表現をしています。既存の言葉で表現しないことで、言葉の概念にとらわれずペンシルらしい制度に進化させていきたいという思いがあります。」
―面白いですね。他にはどのような育業・子育て応援制度があるのでしょうか?
百瀬:「弊社ならではというところで『タラワーク』というものがあります。スタッフの「○○で働け“たら”」を実現する仕組みです。実際、東京オフィスのスタッフが週末に福岡へ里帰りをする際の「来週は福岡オフィスで働け”たら”」や、福岡オフィスのスタッフが友人の結婚式で東京に行く際の「金曜日は東京で勤務ができ”たら”」などを叶えています。こうした実績が多数あるため、スタッフも声を上げやすい環境になっています。もう一つご紹介すると『ペンシルファミリーデイ』というものを7年連続で開催しています。これは、お子さんやご家族をオフィスに招いて、弊社のことを知っていただくためのイベントです。ご家族に会社や仕事への理解を深めてもらい、家族間・スタッフ間の交流も深めてもらうなど、社内でも大きなイベントの一つになっています。先日も役員がお子さんを連れてきてくれましたが、いつもとは違うパパとしての一面を垣間見ることができました。スタッフ同士がお互いの背景まで深く理解する機会となっているようです。あるスタッフが「子どもが急に熱を出して・・」という時も、他のスタッフが「早く迎えに行ってあげて」というような会話が自然に起こるようになっています。おそらくパッとその子の顔が浮かんだりしているのではないでしょうか。イベント以外でも『子ども同伴出勤』が制度としてあり、今ではオフィスに子どもがいることが普通の光景になっています。最近ではコロナ禍において、テレワーク中のオンライン会議にお子さんがひょっこり顔を出すこともありましたが、これがオフィスでも実現しているといったところですね。」
育児や介護で働く時間に制限のある人材を採用したメイト制度。多様な働き方を作り、またそれを受け入れることが育業の一歩に。
―以前から働きやすい環境を整えるという組織文化だったということでしょうか?
百瀬:「そうですね。創業時から『とりあえずやってみよう』という精神があり、こんな制度が欲しい、これをやりたいという声に対して、まずはやってみようか、とテスト的に取り組んで、ブラッシュアップを重ねる組織文化があります。」
―ということは創業当時から育業や子育てに関する制度が明示的にあったのでしょうか。
百瀬:「いえ、私が十数年前に出産した時は、育業していません。というのも、その頃は「働き方改革」とか「ダイバーシティ」という言葉はありませんでしたし、IT企業といえば泊まり込みで仕事することも珍しくなかった時代です。一人のコンサルタントがコンサルティング業務だけでなく、レポート作成やチェック作業などオペレーション業務を含む全ての業務を担当していたため、時間外労働も常態化していました。本来コンサルタントが担当すべきクライアントのためにアイデアや提案を生み出すというコア業務に集中することができないという課題もありました。また、当時はスタッフとして従事していた現代表の倉橋が子育て中の友人から、「出産前と同じようにIT業界に復帰したいと思っているが、残業が当たり前で時短で受け入れてくれる企業がほとんどない」という声を聞き、生まれたのが『メイト制度』です。『メイト制度』とは、子育てや介護などによりフルタイムで働けない人材をパートタイムで採用し、レポート作成や調査、チェック作業など、コンサルティング部門から切り出された非属人的で工数管理がしやすいオペレーション業務を担当する制度です。業務の一部を切り出し、オペレーション業務を集約することで、当該業務の質やスピードが上がり、コンサルタントは空いた時間でコンサルティングやクリエイティブな仕事に集中できる環境を構築することが可能になっていきました。最初はこの部署だけでの取組でしたが、次第に社内全体に広がっていきました。」
―実際『メイト制度』によってどのような効果がありましたか?
百瀬:「取り入れてすぐに業務の効率化が実現、生産性も上がりました。制度導入前は一人当たりのコンサルタントの業務量が膨大になっていました。しかし、メイトさんに非属人的業務を担当してもらうことでコンサルタントは企画やアイデア出しに注力できるようになりました。つまり、一人で抱え込まず助け合いのできるチームで仕事をするようになったわけです。結果、今では全社員の月間平均の残業がかなり減少しました。さらには、一定期間不在でも業務に支障が出ないような環境が整いました。まさに育業可能な環境ということです。もう一つ言うと、メイト制度の導入によって当時(2014年)から現在(2022年)までに離職率が50%減少と大幅に改善されました。これもまた人材の出入りが激しいとなかなか育業するタイミングを見つけにくくなりますので、こうした改善が育業取得率100%の背景にあると思います。」
―それはすごいですね。過去の業務過多の状況を変えたことが、働きやすい環境を作り出したというわけですね。こうした環境の変化はスムーズに浸透したのでしょうか。
百瀬:「最初は、これまでの習慣や仕事のスタイルを変えることに抵抗のあるスタッフもいたり、「どこを、どう任せるのか」の判断がつかないという意見もあったんです。なので、まずは業務切り出しの担当者がコンサルタントの業務を後ろから見学しましたね。その上で、業務を可視化、細分化して、分業できる仕事を探しました。当事者は「自分がやるべき」と思っていても第三者目線で見ると分業できる業務があったりして。切り出した結果、生産性が向上、残業も減る、と良いこと尽くしであることにスタッフも気づき浸透していきました。」
―業務を一定期間離れることができないというスタッフの認識を変え、業務を切り出すことでより働きやすい環境が整ったわけですね。
百瀬:「はい、そうです。冒頭にもお伝えしましたが、育業を積極的に推進したり評価に入れたりといった取組はしていません。ただ、スタッフが不在になる育業期間でも業務に支障がでない環境が整いました。そこに昨今の男性育業促進という世の中の流れがきたんです。結果、上司や人事が声掛けをしなくともスタッフが自ら育業を選択しています。メイト制度の導入とDX推進により各スタッフの頭の中にあった情報をクラウド上で共有できるようになりました。結果、1ヶ月不在になるというタイミングでも引き継ぎがスムーズになっています。さらには、引き継ぎによって社内でも皆が働きやすいように業務の効率化、マニュアル化が進んでいったことも大きいと思います。」
とりあえずやってみたことの積み重ねで育業しやすい環境を生み出した。そして企業成長に繋がっている
―こうした育業取得率100%であることや子育て支援はじめ、貴社の取組により内外ともにどのような効果が生まれましたか?
百瀬:「繰り返しになりますが、離職率が圧倒的に改善しました。IT業界は本当に人材獲得が難しいですので、離職率の改善はとても良い結果です。またメイトさんたちにとっても働きやすい環境を整えることができ、仕組みができてから長く勤めてくれている方も増え、業務の質が格段に上がっています。チームとしてボトムアップし、さらには会社も大きく成長することができていると実感します。また、新卒採用にも力を入れていますが、「育業はできますか?」という質問をいただく時代になりましたが、胸を張って可能であることをお伝えできます。さらに、弊社はコンサルティングを主な業務としているため、ダイバーシティ観点からのさまざまなコンサルティング提案も可能になりました。つまり働きやすい環境を作り出すことによって、スタッフの満足度も、業績にもプラスの効果が生まれています。」
―最後に、これから育業支援の取組を検討している企業様へ何かメッセージをお願いします。
百瀬:「育業に関わらず、制度設計に時間や工数をかけるよりも『とりあえずやってみる』ということですね。スタッフ数名というところから始まり、今では140名を超える規模の事業にまで成長しました。それは、まずスタッフが希望する働き方の要望を可能な限り実現してみて、うまくいかないところは改善しながら、より良い取組へと進化させてきたからです。もちろん、うまく運用できないと思えばやめることもありますし、改善点を見つけて解決していくこともあります。次第に自社にあった取組となっていくので、まずはやってみることが大事だと思います。」
記事の内容は掲載時点の情報に基づいております。