掲載日:2024年3月11日
株式会社ドクタートラスト
女性活躍企業に男性育業促進のヒントあり。
仕事と家庭を分けることはできないからこそ、会社全体で子育てをする社風を生み出す
企業への産業医紹介など、企業で働く人々の健康を支えるビジネスを展開する株式会社ドクタートラスト(本店:東京都渋谷区)では、これまで女性社員が主となり会社を成長させてきました。保育室を併設するなど子育て中でも無理なく働ける取組をした結果、男性育業も自然と広がったそうです。常務取締役 須田敦子さん、人事部人事課係長 両田真菜さん、広報部課長 中川花穂さんに、男性育業が浸透するヒントを伺いました。
「仕事と育児の切り分けは難しい」が前提。女性活躍企業の強みを生かして、子育てしながら働き続けることが当たり前になる制度を作り上げた
―御社には女性社員が沢山おられますが、子育てと仕事の両立支援にはどのような姿勢で取り組まれているのでしょうか。
常務取締役 須田敦子さん(以下、須田): 弊社は女性比率が高い会社で、約8割が女性です。管理職も女性が多く、妊娠・出産・その後の子育てなど、家庭と仕事を頑張っている社員が多数在籍しています。家庭と仕事のバランスの取り方は社員によって様々ですが、少なくとも子育てを理由に仕事を諦めてほしくないと思い、社員のニーズに応える形で制度や仕組みを構築してきました。
具体的には、子供ができて親になるというライフステージの変化を迎える社員一人ひとりのケースに向き合って、どういう制度が必要なのか、どういう対応をすればその社員が辞める選択をしなくて済むのかということを積み重ねてきました。
広報部課長 中川花穂さん(以下、中川): 弊社は働く人の健康をサポートしている会社です。その会社の社員が不健康だったら説得力がありませんよね。弊社では以前から、心身ともに健康であるためにも働きやすさに対する意識は高かったと思います。男性育業推進という点でも希望者が育業できることや、育業した本人とその家族が健康であることを、会社として応援しています。
須田: 私自身も2児の親ですが、なかなか仕事と子育ての両立というのは難しいと思っていて、ライフワークバランスを常に探しているところです。それぞれの状況はもう一方に影響します。子育てについて前向きになれれば仕事にもポジティブになれると考え、会社として積極的に社員の子育てを支援していく必要があると思っています。
―御社における男性社員の育業について、現状を教えてください。
須田: 弊社で育業する男性社員が出てきたのは、実はごく最近です。今月、弊社で初めて育業した男性社員が6か月の育業を経て職場復帰しました。そして2人目の男性社員が現在育業中で、2か月後に職場復帰する予定です。3人目の育業希望者も相談に来ており、期間の調整をしているところです。3人とも期間としては3か月や6か月など比較的長期になります。ここ最近は、子供が生まれても育業はしないという社員はおらず、育業取得率は100%になっています。
このように男性社員が育業するようになったのは、今回の法改正※が大きなきっかけだと思います。社内に周知をしたところ、すぐに反応がありました。世間的にも、子を授かる夫婦において、男女ともに育業するという考えがスタンダードになってきていることを感じます。(※育児・介護休業法2022年10月改正)
人事部人事課係長 両田真菜さん(以下、両田): 人事としても意義のある育業にしてほしいと思っています。育業をする場合の具体的なスケジュール感を男性は想像しにくいと考えており、制度だけではなく具体的な説明を行い、最適な期間を過ごせるよう一緒に模索する必要があると思います。
―育業する男性社員の皆さんが、数か月単位という長期間の育業をされているとのことですが、その背景にはどのような取組があったのでしょうか。
須田: 弊社は子育てしながら働く女性が多いので、男性社員は「育業中はこれくらいできないとママを支えられないよ」といった、ママ側からのリアルな声を日常的に耳にしています。何より愛称「育業」のとおり、育児休業は休みではないということをたくさん聞いているので、育業中に何を行うべきか、男性社員自身が真剣に考えているようです。時代の流れとこうした社内の環境が相まって、男性社員もただの制度としてではなく、リアルな育業に対する認識が生まれたのかもしれません。
現在育業中の男性社員は料理が作れなかったようで、育業前に一生懸命料理本を読んだり、女性社員から食事作りに関するアドバイスを受けたりしていました。
中川: これから育業する男性社員にとって、育業する前に社員同士で育業や子育てに関して気軽に話せることは、非常に良い環境だと思います。心構えや準備をしっかりできるので、子育てについて本で読むより理解度が高まっているかもしれませんね。
子供の成長をしっかり見守れた6か月間は、かけがえのない貴重な時間に
―御社で最初に育業をされた男性社員の方について、教えてください。
須田: 弊社で最初に育業した男性社員は、パートナーの妊娠が分かってから育業に対して確固たる思いを持っていました。彼の場合、育児のサポートを日常的に依頼できる身内は近くにおらず、夫婦で力を合わせていかなければならない環境にあります。そのため、早い段階からどのように子育てに関わっていくかを考えていました。
彼は6か月の育業を経て復職したのですが、6か月という期間に非常に満足しているようでした。新生児から、お座りして、離乳食を食べ始めてと、成長していく過程にしっかり寄り添えたことがすごく良かったと言っていましたね。彼は仕事でのパフォーマンスも高いですし、第一線で活躍しています。彼のような社員が育業するということで、弊社における男性社員の育業の突破口となった事例と考えております。
保育室を通じて日常的に子供と触れ合い、会社全体として子育てをする意識が醸成された
―社員の要望等から色々な子育て支援を行ってこられたとのことですが、どのようなことに取り組まれて来たのでしょうか。
須田: まず、週に20時間程度を就業時間の目安として働く時間帯を決めることができる短時間正社員制度が挙げられます。保育園や幼稚園の送迎ができるように、10時から15時で働くといった設定ができます。この制度は子育て社員の多くが利用しています。その他、子の看護休暇の対象年齢を小学校卒業まで拡大しています。
また、社員から保育園に空きがなく子供を預けられないという相談があったため、会社に保育室を作りました。これはかなり画期的だったと思います。保育室の利用方法は様々ですし、利用する子供の年齢にも決まりはありません。保育室を利用する子供が執務室に出入りすることもありますが、嫌がる人はなく、みんなで声をかけて見守っています。今では、社員みんなが他の家庭のお子さんの顔と名前を知っているという状況になっています。
誰かの子供が急に熱を出したときに、周囲の社員はその子の顔を知っている分、「早く行ってあげて」という声かけや、早く迎えに行けるようなサポートが自然に生まれるようになっています。
こうした環境によって男性社員にも自然と子育てに対する意識が根付いたのだと思います。女性社員がどのように子育てと仕事をしているかが見えることで、パートナーだけに子育てを任せてはいけないと思うようになり、積極的に育業する姿勢に繋がったのではないかと思っています。
両田: 実際に、「会社に保育室があるのでとても助けになるんです」という声をよく聞きます。保育園に預けられない時や、学童保育がなくなる小学校高学年の長期休みの時に、スポット的に利用されることもあります。
須田: うちの子も、他の社員のお子さんと一緒に保育室で夏休みの宿題をしたりしています。お互いの子供のことも知った上で、親同士で子育ての悩みを話したり、みんな似たようなことで頭を抱えているのだと知ることができたりと、何かと心強い環境にあると感じています。
子育ての日常のイメージを持ってもらうことが、育業や子育て支援につながる
―まさに会社ぐるみで子育てしている様子が目に浮かびます。自然と男性育業も浸透したように感じますが、御社の中で課題などはなかったのでしょうか。
須田: 課題が全くなかったわけではありません。男性が育業する事例が皆無だったところから、一気に半年間の育業という事例が発生しました。社員の中には、男性育業について具体的なイメージが持てないために、男性が6か月も育業をできるのだろうかと疑問視する声もありました。自分が経験していないことを想像するのは難しいですから、仕方のないことだと思います。
だからこそ改めて思うのは、イメージを持ってもらうことがとても大事だということです。これは既に子育てが終わった世代だけではなく、これから育業することになる若手に対しても同様です。
その点からも、保育室を通じて子供たちが会社に顔を出して、子育てしている他の社員の姿を見ることは、解像度の高いイメージを持ってもらう良い機会になっています。百聞は一見に如かずと言いますか、どんなに人事が研修等を通じて説明するより効果的ですね。
中川: 男性社員が育業で業務上不在になるということで、社内に混乱が生じることはありませんでした。これまでも女性役職者が育業で1年前後不在になることが多々ありましたので。女性が多い職場として育業による不在に対応してきた経験により、役職者を含む社員が何かしらの事情で一定期間不在になることへの抵抗が少なかったのだと思います。
―最後に、これから育業を推進する取組を考えている企業様にメッセージをお願いします。
両田: 弊社の男性社員で育業をする人が増えてきた背景には、日頃のコミュニケーションがあると思います。弊社では全社員がワンフロアで働いていることもあり、子育てについて部署を超えて活発に会話しています。男性社員の家庭にお子さんを授かったとなれば、子育て経験の有無に関わらずみんなが育業を勧めるような声かけをしています。新たな命の誕生への喜びや子育てが大変なことなど、みんなが共感し合っているように感じます。
中川: コミュニケーションが活発なところは本当に弊社の良いところだと思います。男性育業の推進でお悩みの企業・団体様は、業務の話だけではなく、家族の話などが日頃のコミュニケーションでできるようになると良いですね。子育てでも介護でも、「今あの人が大変そうだ」という話が気軽にできると、サポートし合う風土につながっていくのだろうと思います。
須田: 冒頭でもお話ししましたが、仕事と家庭を切り分けることは難しいからこそ、職場で両方の話をざっくばらんにできる環境は重要だと思います。これまで家庭に関わることが多かった女性が多い弊社だからこそ、実現できているのかもしれませんが、これから家事や育児に関わる男性が増えてくれば、自然と職場でもそのような会話をするようになると思います。次第に、男性か女性か、子供がいるかいないかではなく、会社全体で一緒に育児のことや仕事のことに関わっていけたら、男性育業も進み、男女ともに活躍できるようになっていくのだと思います。
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